法人の減価償却不足額の解消方法~償却不足はいつ解消されるのか?【具体例付】

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通常、一般的に税務上の償却費と会計上の償却費は一致させますので、減価償却費の過不足が発生することはありません。しかし、何らかの理由で償却過不足が発生することがあります。

今回の記事では、過不足の不足の方に着目して、「減価償却不足額の発生~償却不足が解消されるまで」の流れを具体的な計算事例を元に紹介していきたいと思います。(流れで超過額が発生した場合も解説しちゃってますが)。

この記事を読むことで

  • 償却不足額の別表での確認の仕方
  • 償却不足が発生している場合の減価償却計算の元となる期首簿価の求め方(定率法の場合)
  • 償却不足額の会計及び税務上の処理方法

について学ぶことが出来ますよ。

目次

そもそもなぜ償却不足が起こるの?どんな時に発生する?

そもそもですが、償却不足はなぜ起こるのでしょうか?主な発生原因は以下の通り。

  • 会計上の償却方法と税務上の償却方法が異なる
  • 単純に計算を間違えた

ですかね。さらに言えば、繰越欠損金の延命のために自発的に会計上の償却を止めて償却不足を発生させることもあります。

参考にどうぞ
借入融資のために減価償却をストップさせても意味はないが、繰越欠損金の期限切れを防ぐためなら仕方ない。 融資をスムーズに受けるために減価償却費の計上をストップして利益を出す!、なぜか融資獲得のテクニックのような事を言われますが、果たしてそんな事をして大丈夫でしょうか?繰越欠損金の期限切れ防止のための減価償却費ストップの話も合わせて紹介していきたいと思います。

償却不足が発生しているかどうかの確認方法~別表十六のどこで表示されてる?

別表上での償却不足額の記載は別表十六の中でも番号は変わりますが、基本的には同じところにあります。

「差引ー償却不足額」と書かれているところですね。下記は参考までに引っ張ってきた別表十六(二)「定率法」の明細書の例です。

定率法の償却超過額・償却不足額の発生推移(大サイズ)

一応アップでも載せておきましょう。

定率法の償却超過額・償却不足額の拡大図

上表で言う「㊵償却不足額」には「会計上の償却費<税務上の償却費」となっている場合に数値が入りますよ。

銀行マンも融資の審査をする時に別表十六のこの償却不足額があるか否かをチェックするように言われているようです。

定率法・定額法それぞれの減価償却の計算方法(償却率をかける対象金額)

早速具体的な計算例を見ておきたいのですが、償却不足が発生している場合の税務上の減価償却費の計算方法について先に「定率法」「定額法」に分けて紹介しておきたいと思います。これが分かってないとそもそも計算例見ても分かりません。

会計上ではなく、あくまでも税務上の減価償却費の計算ですよ。

定率法の場合で償却不足が発生している時の減価償却のやり方

まず条文を引用します

(2) 定率法(当該減価償却資産の取得価額(既にした償却の額で各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入された金額がある場合には、当該金額を控除した金額)にその償却費が毎年一から定額法償却率に二(平成二十四年三月三十一日以前に取得をされた減価償却資産にあつては、二・五)を乗じて計算した割合を控除した割合で逓減するように当該資産の耐用年数に応じた償却率を乗じて計算した金額~以下省略~

法人税法施行令第48条のニの1項一号イ

定率法の償却費の出し方は、期首簿価に償却率を乗ずれば良いんだ!というのは、この記事をご覧の皆様ならお分かりかと思います。

が、問題は「償却不足額が発生している時の償却率を乗ずる期首簿価はどれなのか?」という事になります。

正解は赤文字にしたところ。更に抜粋して最も重要なところを赤くします。

「既にした償却の額で各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入された金額がある場合には、当該金額を控除した金額」

つまり税務上損金に算入された償却費分だけ取得価額から控除するという事です。あくまでも税務上であり、会計上費用にした金額ではありません。

ご存知のように減価償却費は損金経理要件がありますので、法人の決算において該当事業年度において法人の損金として処理される減価償却費の金額は、「法人が会計上減価償却費として経費処理した金額のうち、税務上の規定に基づいて計算した金額に達するまでの金額」です。

逆から言えば、会計上の費用処理額が税務上の償却限度額に満たない場合の償却不足分は切り捨てられます。

税務上の償却限度額を基準として考えると、以下のようになりますね。

従って、上表が1年目の償却費の一覧だったとして取得価額が500の資産があるとすると、翌期の税務上の期首簿価はパターンごとに下記のようになりますよ。

  • パターン①:420(500-80)
  • パターン②:400(500-100)
  • パターン③:400(500-100)

取得価額から控除する金額は税務上損金になった金額!と覚えて下さいね。

定額法の場合で償却不足が発生している時の減価償却のやり方

では、定額法の場合はどうでしょうか?こちらは非常に簡単ですが、一応条文置いときます。

(1) 定額法(当該減価償却資産の取得価額にその償却費が毎年同一となるように当該資産の耐用年数に応じた償却率((2)において「定額法償却率」という。)を乗じて計算した金額を各事業年度の償却限度額として償却する方法をいう。~以下省略~

法人税法施行令第48条のニの1項一号イ

特段、難しいことは書かれていないですね。ご存知のように定額法は取得価額に償却率を乗じます。

これは償却過不足があるか否かは関係ありません。定額法は何も考えずに取得価額に償却率を乗ずる!と覚えましょう。

減価償却不足の発生から解消までの計算の具体例を紹介

では、実際問題償却不足が発生したらどうなるのか?を定額法及び定率法に分けて紹介していきたいと思います。

共通の前提条件は以下の通りとします。

  • 取得価額:100万円
  • 耐用年数:5年
  • 会計上の償却費:1年目30万円、2年目~5年目は10万円、6年目25万円、7年目に除却

という流れでやっていきます。まずは定率法から。

定率法の場合の計算例

・通常償却率:0.400
・改定償却率:0.500
・保証率:0.108

結果は以下のとおりです。

定率法の場合の償却推移

1年目~5年目まですべて償却不足です。

この場合、

「会計上の償却費<税務上の償却費」となっている部分はすべて切捨で税務調整も無しです。要は、1年目~5年目まで全部の年で「会計上の償却費=損金の額に算入された金額」という事です。

【1年目】

・会計上:300,000円
・税務上:400,000円
・償却不足額:100,000円→切捨

税務上の期末簿価は700,000円(1,000,000円ー300,000円)で、2年目は700,000円に償却率をかけます。

【2年目】

・会計上:100,000円
・税務上:280,000円
・償却不足額:180,000円→切捨。

税務上の期末簿価は600,000円(700,000円ー100,000円)で、3年目は600,000円に償却率をかけます。

【3年目~5年目】

考え方は2年目と全く同じですので割愛。

【6年目】

・会計上:250,000円
・税務上:120,000円
・償却超過額:130,000円→減価償却超過額として加算・留保で別表調整。

この時点で税務上の簿価は18万円となりました。税務上の簿価のうち13万円は損金算入が留保されている状態ですね。

【7年目】

除去!(期中の減価償却は計上しないと想定)

除却すると留保されている減価償却超過額も含めて、残りの簿価18万円全て損金算入されますよ。税務的には13万円は減価償却超過額認容で減算、5万円は普通に除却損として入ってくる感じですね。

定額法の場合の計算例

続いて定額法。定額法なので税務上の償却率は0.200ですね。それを前提で行きますと、1年目~6年目は以下のようになります。

定額法の場合の償却推移

ちょっと表がイケてなくて分かりにくいかもしれませんので一年目から詳しく見ていきます。

【1年目】

・会計上:300,000円
・税務上:200,000円

会計上>税務上となっていますので、税務上の償却費を超える金額10万円は減価償却超過額(加・留)として別表調整の対象とします(→翌年度以降に損金算入させるために保留にしておく)。

【2年目】

・会計上:100,000円
・税務上:200,000円

会計上<税務上となっていますので、通常であれば会計上の償却費を超える金額10万円は償却不足額として切捨処理されますが、1年目に留保した10万円分の減価償却超過額が残っていますので、その10万円の超過額を認容して減算処理します。これにより、2年目の期末においては会計上と税務上の簿価が一致します。

【3年目~5年目】

・会計上:100,000円
・税務上:200,000円

会計上<税務上となっていますので、会計上の償却費を超える金額10万円は償却不足額として切捨処理。

2年目と違うのは償却超過額が溜まっていない事です。会計上の償却不足額は税務上の調整をしませんので、会計上費用処理された金額分だけ税務上の簿価が減っていきます。(そもそも会計上費用処理した金額を上限として税務上の損金になります)。

従って、3年目から5年目は毎年税務上の簿価は10万円ずつ減っていきます。

【6年目】

・会計上:250,000円
・税務上:200,000円

会計上>税務上となっていますので、税務上の償却費を超える金額5万円は減価償却超過額(加・留)として別表調整の対象とします(→翌年度以降に損金算入させるために保留にしておく)。これにより6年目終了時点での税務上の簿価は10万円となります。

【7年目】

除去!(期中の減価償却は計上しないと想定)

除却すると留保されている減価償却超過額も含めて、残りの簿価10万円全て損金算入されますよ。税務的には5万円は減価償却超過額認容で減算、5万円は普通に除却損として入ってくる感じですね。

償却不足が解消されるタイミングはいつか?のまとめ。

償却不足はいずれ解消されますが、解消されるタイミングとしては以下の2つが考えられます。

  • 耐用年数経過後も会計上償却費を計上して損金算入させる
  • 除却や売却等により資産そのものを無くす

このどちらかです。また、減価償却超過額がある時に発生した償却不足額は既に計上済みの減価償却超過額の範囲内で損金算入することも可能ですね。

特別償却不足額は繰越可能

ここまで普通償却不足額は繰越不可!税務調整も無いよ。唯一使えるとしたら、前期以前に減価償却償却超過額を計上している場合だけだよーという話をしてきました。

ただ、一方で特別償却不足額(即時償却も含)の場合は1年間だけ繰り越すことが可能です(租税特別措置法第52条の2第2項)。これは制度趣旨として、政策的な目的として特別に償却額を増加させるという趣旨があるので償却不足だからといって一律に不足額を切捨してしまうと政策目的が達成できなくなるから設けられている繰越制度です。

下記は別表十六(一)を拡大したものですが、しっかりと特別償却不足額の繰越という文言がありますね。

特別償却不足額の記載場所

個人事業主(所得税)でも同じような事は発生するのか?

ここまで法人の話をしてきましたが、個人事業主の場合はどうでしょうか?

この点、個人事業主の場合、減価償却費は強制的に計上されます。法人のように減価償却費を計上するか否かを選択することは出来ません。必ず償却費を計上することになります。

従って、ここまで書いてきたような問題が個人事業主の確定申告で発生することはありません。

参考にどうぞ
減価償却費の計上、法人税法上は任意で所得税法上は強制の根拠 減価償却費の計上は任意か強制か!?答えは所得税法上は強制だし、法人税法上は任意です。ではその根拠は?と聞かれたときに困らないためにその根拠をまとめてみました。参考になれば幸いです。

まとめ

会計上の償却費は税務処理に従って処理する限り適正と判断されることもあって、ほとんどの場合で「会計上の償却費=税務上の償却費」となるように決算を組みます。過不足を発生させるような事はしません。

ただ、稀に償却費の金額のズレが発生することもありますので、そのような場合には今回の記事などを参考にしながら処理を進めていって頂ければと思います。

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