借入融資のために減価償却をストップさせても意味はないが、繰越欠損金の期限切れを防ぐためなら仕方ない。

減価償却と融資のサムネイル

利益を出さないと銀行が融資を継続してくれないのでは?と経営者が考えて、赤字回避のために減価償却の計上をストップすることがあります。

一応、法人税法上減価償却費は任意と言われているので、とりあえず何としてでも黒字を出さねば!という事で意図的に償却をストップするわけですが、果たして減価償却費の計上をしない事に意味はあるのでしょうか?

以下、今回の記事では

  • そもそも減価償却のストップは法人税法上本当に問題ないのか?
  • 融資のための減価償却のストップに意味はあるのか?
  • 繰越欠損金の期限切れを防ぐために減価償却費を計上しないとはどういう事か?

という3本立てで記事を書いていきます。

目次を見て気になるところをチェックしてください!

目次

そもそも本当に減価償却費を計上しなくても問題ないのか?

下に貼り付けた記事にも書いてあるように、一応法人税法上減価償却費の計上は任意だと考えられています。

参考にどうぞ
減価償却費の計上、法人税法上は任意で所得税法上は強制の根拠 減価償却費の計上は任意か強制か!?答えは所得税法上は強制だし、法人税法上は任意です。ではその根拠は?と聞かれたときに困らないためにその根拠をまとめてみました。参考になれば幸いです。

一応、こちらでも説明しておきます。条文を引用しますね。

内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の所得の金額の計算の通則)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。

法人税法第31条 e-gov

この条文を図示すると、損金となる減価償却費は、下の図の①のように、会社が減価償却費として計上した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額となっていること分かります。

減価償却過不足の表

つまり、法人税法が言っているのは、会社が多額の減価償却費を計上したとしても、1年間の間に経費計上できる償却費の金額は決まっているのでそれ以上は損金にならないですよ!という事です。ここは理解しておきましょう。

一方で「②の償却不足額が出るケース」はどうでしょうか?
法人税法では償却限度額を規定しているのみで、それを下回ったとしても何ら問題は無いと読めそうです。これが良く言われる「法人の減価償却費の計上は任意である」という根拠です。

しかし、果たして本当にそうなのでしょうか?もう少し深堀りして、別の条文を見てみましょう。法人税法22条です。

第二十二条 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 省略
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする
5 省略

法人税法第22条 e-gov

22条はいわゆる所得の金額を求める時の注意点が書いてある条文ですが、その4項を見てください。

損金に算入する金額は「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする」と記載されています。

そうです。そもそも法人税の税金計算の方法は、企業会計の基準に従って計算された利益(あるいは損失)に、法人税法上の調整項目を加味して課税所得を計算します。

企業会計のルールから考えれば、減価償却費を計上しないという選択肢はありません。従って法人税法22条4項に忠実に行動するのであれば、法人税の計算をするうえで減価償却費が計上されないという事は起こりえません。従ってやはり本来はしっかりと計上すべきでしょう。

また、中小企業向けの会計指針である「中小企業の会計に関する基本要領」においても以下のように記載されています。

そして、相当の減価償却とは何か?という点に関して「「相当の減価償却」とは、一般的に、耐用年数にわたって、毎期、規則的に減価償却を行うことが考えられます。」と記載されており、基本的に減価償却費を計上しないという行為は想定されていません。

とはいえ、中小企業の場合は減価償却費を計上しなくても何かしらの罰則が課されたという話は聞いたことが無いので、減価償却費を計上しないという選択も現時点では普通に有り得るという評価になりそうです。

融資のために減価償却をストップさせても意味はない理由

なぜ融資のために減価償却をストップさせても意味ないかと言うと、そもそも償却不足は金融機関にチェックされているからですね。

銀行は決算書を検討する際

  • 滞留している在庫はないか?
  • 回収可能性の低い売掛金はないか?
  • 減価償却は適切に行われているか?

などをチェックしています。仮に減価償却が計上されていない場合には計上されているものとみなして再計算してから融資判断を行います。

そのため、減価償却費の計上をストップして、見かけ上決算書で利益を捻出しても、金融機関側で修正されるので意味が無いという事になります。

むしろ、金融機関側から「粉飾決算をして当行を騙さそうとしているのか?」と言われる可能性すらあります。

そのため、もし赤字が出そうなのであれば小手先の対策ではなく、決算の内容を取引金融機関に報告し、赤字の原因と経営改善に向けてどのような事を考えているかを懇切丁寧に報告するほうがよっぽどマシですよ。

なお、金融機関への決算報告を行わない経営者もいますが、どうせ決算書や試算表は求められますので先方から言われる前に自ら決算書を提出した方が良いですよ。決算書に加えてA3ペラ1ベースで良いので業績サマリー(要因含)や当期の見通しなどをまとめた資料を添付しておくと尚良いですね。

【節税目的】繰越欠損金の期限切れを防ぐためならアリ!?

青色申告をしている会社だと過去の赤字を10年間繰越出来る制度があります。この繰り越された赤字(いわゆる「繰越欠損金」)は当期以降の黒字と相殺出来ますので、赤字額が膨大な場合、黒字が出たとしてもほとんど税金を払わずに済む事があります。

そのため、繰越欠損金が期限切れあるいは膨大で使い切れ無さそうな場合には、「①減価償却費をストップして益出し→②過去の欠損金に当期の黒字をぶつけて節税!()→③益出しするためにストップした減価償却費を翌期以降に費用計上することで節税!」という事が行われるわけです。

当期が赤字でも当期の減価償却費の計上をストップしていれば来期以降の損金に算入できるので、赤字の場合でも何しか節税効果はあります。

これが「有り・無し」のどちらかは税理士界隈でも定期的に話題になる事項でして、正直正解はありません。ただし、【節税】という目的であれば確実に効果がありますので、そこを重視するのであればやった方が良いと思います。

ただ、先程も見たように「減価償却費の計上ストップ」は粉飾決算と言われる可能性も無きにしもあらずなので、実際に費用計上をストップさせる場合には事前に金融機関にその旨をしっかりと伝えておく方が良いでしょう。何なら決算書の注記にその旨書いといても良いかもしれません。

個人的にも欠損金の期限が切れそう・使い切れ無さそうという事なのであれば償却費の計上をストップさせても良いのかなと思ったりします。

とは言え欠損金の期限は10年もあります。10年かけて欠損金を使い切れないような企業が、今後市場が確実に縮小していく日本で永続的に事業を継続することが出来るのか?そんな企業は早晩淘汰されてしまうのでは?と思ったりもしますけどね・・・・。

まとめ

今回の記事のポイントを纏めておきますと以下のようになります。

  • 法人税法から考えても減価償却費のストップは原則として無し
  • 融資のために減価償却費をストップさせても意味はない
  • 赤字企業の繰越欠損金のためなら償却費の計上をしないのもやむ無し

個人的には「融資がおりるか心配」とか「欠損の期限切れが心配」とか考えるのがアホらしいほどに利益を出すのが結局のところ一番健全なのかなと思いますので、本業に精を出していきましょう!

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