日本政策金融公庫の創業融資の審査通過率がどれくらいかご存知でしょうか?
これが意外に低くて、専門家の力を借りずに自力で日本政策金融公庫の創業融資を申込んだ人の審査通過率は50%~60%程度と言われています。一方で、税理士が関わると審査通過率は80%~90%に跳ね上がります。
なぜ、税理士が関わる・関わらないで、ここまで審査通過率が変わるのか?
それは、税理士が関わっている方が安心感があるので公庫の担当者が頑張ってくれる!というのもあるとは思うのですが、「創業融資のポイントを抑えた資料の作成を税理士が一緒にやってくれるから」というのが一番大きなポイントかなと思います。
そして我々が一番力を入れる書類が「創業計画書」です。この計画書がきっちり書けているか書けていないかで融資審査の通過率は大きく変わります。今回の記事では日本政策金融公庫の創業計画書について一つ一つ丁寧にどんな事をどういう風に記載すれば良いのか解説していきます。
創業時の借入に成功できるか否かが”事業の命運”を決めると言っても過言ではありません。これから創業融資を受けようと思っている方は今回の記事をしっかりと読んで自身の創業計画書に反映させてみて下さい!
なお、日本政策金融公庫は創業支援にかなり力を入れており各種書式のダウンロードページに「創業の手引」という資料をアップロードしてくれていますが、これがかなり秀逸です。創業融資を申し込む際には是非一度事前に目を通しておきましょう!
創業計画書の書き方を具体的に解説
上に貼っつけた画像が実際に使用する日本政策金融公庫の創業融資で利用する”創業計画書”です。以下、それぞれのセクションに分けて解説していきますが、絶対にやってはいけない事があります。それは
「空欄のまま提出すること」
です。私が支援者として関わっているなら、仮に空欄であっても私がチェック&修正してから公庫に提出することになるので別段問題になりませんが、特段支援者の手を借りずに公庫に提出される方は本当に注意して下さいね。絶対に埋めてから提出して下さい。
普通に考えて、創業計画書が埋まっていない人に(私なら)お金を貸すことはありません。創業計画書を埋める熱意すら無いのか・・・と判断して足切りレベルで検討しません。「あ、この人は創業することを甘く見てるから計画書を作ら無いんだな」と判断します。
面談等もありますが、公庫は基本的にこの”創業計画書”を見て創業融資をするか否かを決定します。「創業計画書が埋まっていない=融資をするか否かの判断材料が乏しい」という状態です。
公庫の担当者さんは優しいので、そういう状態でも何とか頑張って融資を出してあげよう!という気持ちで動いてくれると思いますが、如何せん情報量が少ないと公庫内部の審査でOUTになります。必ず創業計画書は埋めきりましょう。
1. 創業の動機
ポイントは下記3点です。
- ①これまでの経験を簡単に書く
- ②創業を志すまでの経緯(なぜ創業するのか?)
- ③なぜ”いま”創業するのか?
これらを「創業の熱意」を交えて書けると良いですね。
たとえば、中古車販売業だとこんな感じになります。
・元々車好きで将来は車が関係する仕事をしたいと思っていた
・中古車販売業に10年以上従事する中で、中古車販売業の一連のフロー(営業・買取・事務作業)を学習し、関連機関とのパイプも作れた。
・目標としていた開業資金を貯めることが出来た矢先に、◯◯線沿いに丁度よい物件を発見した。いまが自分自身の色を出した店舗を作っていくチャンスだと思って創業を決意した
ストーリー性が大事です。プラス、そこから計画性が読み取れると尚良しです。
反対に、「サラリーマンが嫌になったので独立を決意しました!」などのネガティブな理由はNGです。なぜなら計画性が無く短絡的な動機と判断されるからですね。あくまでも前向きに熱意を持って、なぜ、いま、創業するのか!?をストーリー性を持って記載しましょう。
2. 経営者の略歴等
年月・内容
ここは学歴と職歴ですね。公庫の担当者が何に注目しているかといえば、あなたに創業事業と関わりのある分野の経験があるか否かをチェックしています。なぜならその分野の経験があればあるほど事業の成功確率が高まるからです。
学歴は必須ではないですが、創業する事業と関係のある学歴なら書いておきましょう。たとえば、整備業で独立するのであれば整備専門学校とかケーキ屋さんで独立するなら◯◯調理専門学校みたいな感じですね。
職歴を書く時のポイントは勤務先だけでなく、「勤務先での担当業務や身につけた技能・資格・実績」などを記載すること。また、役職についていたのであれば「◯◯名の部のマネジメントをしていた」などと記載し、責任者としてのマネジメント能力も伝えられると尚良いです。下記のような感じですね。
あと、公庫が公表している記載例では必ず
の記載があります。これを見ることで、生活費や貯蓄出来る金額等を推測するために使われるのだと思います。
こちらも一応記載しておきましょう。
過去の事業経験/取得資格/知的財産等
これらに関してはもう読んだ通り。そのまま書いて下さい。
過去の事業経験は、マネジメント経験があるかないかを確認したいのだと思います。全然「事業を経営していたことはない。」でもマイナスになることはありませんので、今回始めて創業する方は安心してチェックして下さい。全ての人が最初はマネジメント経験なんてありませんしね。
取得資格や知的財産は創業事業と関連性のあるものは必ず記載して下さい。たとえば、美容師なら美容師免許が必須ですし、士業も資格は必須ですね。
3. 取扱商品・サービス
ターゲット顧客、顧客に与えたいベネフィット、販売形態、セールスポイント等の具体的な記載から創業の準備状況をチェックされています。
事業内容及び取り扱い商品・サービスの内容/単価等
まず「事業内容」「取扱商品・サービスの内容」「客単価等の情報」のエリアです。
ここは「誰に、何を、いくらで」販売するのかを簡潔に記載するようにしましょう。客単価などは後で見る「9.事業の見通し」と齟齬が出ないようにする必要があります。
また、セールスポイントや販売ターゲットはこのセクションの下段にも書くところがありますが、この段階においても、ターゲット顧客、顧客に与えたいベネフィット、販売地や販売形態(店頭販売・通販など)等まで意識して書けると、融資担当者に「どんな商売をしていきたいのか?」を具体的に伝えることが出来るので高評価を得やすいですよ。
参考までにいくつか公庫の記載事例を見てみましょう。
(洋風居酒屋)
(婦人服・子供服小売業)
(歯科診療所)
いずれもターゲットやベネフィットが分かる書き方になっていますね。
セールスポイント
競合他社がいる中で貴方の商品・サービスが選ばれる理由を書いて下さい。他社と比べて差別化出来ているところ、いわゆる「強み」「売り」「他社との違い」を書くところです。
例えば、内装工事業だったらこんな記載事例がありますね。
素晴らしいですね。
販売ターゲット・販売戦略
いわゆる集客ですね。どのような人(ターゲット)にどのような手段(販売戦略)で貴方の商品・サービスを販売していくかを記載します。
例えば、整形外科で開業するお医者さんであれば「高齢者向けセミナーの講師をして関節痛に悩む高齢者の方を集客する」とかですね。もちろん、近隣地域のポスティングするとかもありです。
学習塾であれば「初回お試し体験(販売戦略)で新規顧客獲得を図る」とかですね。
競合・市場など企業を取り巻く状況
4. 従業員
従業員数は注意書きをよく読んで記載して下さい。
大雑把に言ってどこを見られているかと言うと、
- 事業を遂行するために必要な人員は確保されているか?
- 「9.事業の見通し(月平均)」に記載された人件費と整合性が取れているか?
あたりです。ここはまぁ異常値が出て無ければそこまで気にしなくて良いです。
経済的な観点から、人件費はかなり負担の重い固定費という事は認識しておきましょうね。
5. 取引先・取引関係等
ここでは「販売先・仕入先・外注先」を未定にしないことがポイントです。
未定=まだビジネスモデルが自分の中で定まっていないのかな?と判断されてしまいます。仕入先や外注先など一部交渉中であっても必ず記載しておきましょう。割と大きな企業相手に販売が決まっている場合などは、「貴方のこれまでの行いが良いから大手から受注できているのだな!」と判断できるので評価も高まります。
まだ、「掛取引の割合、回収・支払の条件」などの販売・仕入条件は確認必須です。この条件次第で資金繰りが大きく変わります。私が担当者であれば「販売条件・支払条件」を把握せずに創業しようとする人は「準備不足」と判断します。必ず取引先に確認・交渉して記載しましょうね。
人件費の「締め日・支払日」もしっかりと記載しましょう。もちろん、資金繰りも勘案してです。
6. 関連企業
「お申込人もしくは法人代表者または配偶者の方がご経営されている企業がある場合にご記入下さい。」と書かれています。これは、要は本人と関係の深い人が事業をやっている場合に、信用保証の利用状況など確認するためですね。
公庫の意図としては、財務状況が悪い関連企業に創業融資が流れてしまう可能性が無いか?をチェックしたいのだと思いますが、大抵の人は関係ないと思うので素直に書いておきましょう。
7. お借入の状況
日本政策金融公庫では、融資審査の一環で、CIC等の信用情報機関に照会して申込者の借入残高や返済状況を確認しています。要は、基本的にプライベートのものも含めて借入状況は見られているという事です。
そのため、隠しても無駄なので借入があるなら包み隠さず全部書きましょう。記載しないとむしろ「この代表者は不誠実」と判断されて融資が遠のきますよ。
8. 必要な資金と調達方法
ここはかなりポイントが多いところですので、まずは箇条書きで紹介。説明が必要そうなところは補足します。
- ①「必要な資金の合計」と「調達方法の合計」が一致することを確認
- ②【設備資金】見積金額が適切か?相場を調べたり相見積もりを取得するなどした姿勢を見せる
- ③【運転資金】事業開始後の運転資金(半年程度の赤字補てん資金)もOK
- ④必要資金は過不足無く記載されているか?
- ⑤自己資金は創業計画資金(要は必要な資金の合計の金額)の20%~30%以上あるか
①必要な資金の合計=調達方法の合計
これは実物を見てもらった方が分かりやすいので、公庫の記載例を貼り付けます。
当たり前のことですが、左側の合計と右側の合計は一致します。たまに何故か一致していない人がいますので注意しましょう。
この表は、「必要な資金はいくらか分かっていますか?」→そして、「その必要な資金をどのように調達しますか?」という話を数字化するものなので、一致しないとおかしいですよ。
②設備資金エリアの補足_見積もり等について
ここには機械装置等の固定資産や店舗の敷金などが入ります。
しっかりと見積もりを取って金額の妥当性を示しましょう。また、複数の業者が提供しているものであれば、相見積もりを取得するなどして、借入過多にならないように配慮していることを示します。(なお、金額が固定のものであればパンフレット等でも代替可能です)。
③運転資金エリアの補足
ここは概ね半年程度の「商品仕入・人件費・家賃・その他経費」等を見込みます。
基本的に融資は赤字資金補填の為には出ません。ただ、立ち上がりが遅いビジネスだとどうしても開業当初は赤字になってしまうので、その辺りの赤字補てん資金も踏まえて記入します。
ただ、先程も書いたように赤字資金は基本的に融資の対象外です。赤字資金をお願いするにしても「開業◯ヶ月はこれくらいの赤字が出る見通し。だからこの金額が必要」という感じで、その数字について説得力を持って説明できるようにしておく必要があります。
④必要資金は過不足無く記載
設備資金にしろ運転資金にしろ、業務を回していく上で必要な資金を過不足無く書くようにして下さい。
審査にあたって、その事業をやるにあたって必要な資金をしっかりとイメージできているのか?という視点でも見られていると考えて下さい。
たとえば、従業員が絶対に必要な事業形態を想定しているのに、運転資金の所に人件費が含まれていなかったら、「この応募者は必要資金についてちゃんと考えているのだろうか?」と疑問に思われてしまいますよ。必要な資金を過不足無く書きましょう。
なお、たまに「公庫の創業融資で借りたお金は全て機械装置への投資に使うので、必要資金の欄は機械装置の金額だけ書けばいいですか?」と聞かれることがありますが、答えは「NO」です。なぜなら、創業融資はあくまでも事業全体を見るものだからですね。
しっかりと事業の全体像(お金の面も含めて)を書いて融資申し込みをしましょう。
⑤【調達の方法】自己資金は必ず用意すること!
以前は日本政策金融公庫の創業融資を受けるには、応募要件として創業資金の10%以上の自己資金があること!という縛りがありました。しかし、2024年からは創業の門戸を開くため「10%以上の自己資金要件」は撤廃されています。
【参考】新規開業資金|日本政策金融公庫
とは言え、創業融資をしてもらうと思ったら最低限度の自己資金は必要です。目安としては最低20%!出来れば30%は欲しいです。
やっぱり、創業という夢に向かって行動している人間が1円の自己資金を用意できないなんて事ないやろ!と審査する側は思ってしまうわけですね。自己資金ゼロ円で融資を受けたいのであれば、よっぽど事業計画が秀逸とか審査担当者を激しく納得させる何かが必要だと思います。
ちなみに、最低でも20%と書いたのには理由があります。創業融資を実際に受けた人たちの自己資金比率の平均が記載された統計データが公庫から発表されているのですが、その数字を見ると2023年直近で自己資金比率23.7%(調達額合計:1,180万円に対して自己資金280万円)となっているからです(参考:2023年度新規開業実態調査_日本政策金融公庫)。
ちなみに、1998年が公開されているデータの中で最も自己資金比率が高い年なのですが、この時は自己資金比率30.2%(調達額合計1,442万円のうち自己資金435万円)となっており30%を超えてきています。
皆さんも可能であれば30%を目指しましょう。
9. 事業の見通し(月平均)
個人的には「9.事業の見通し(平均)」が創業計画書の中で最も大事だと思っています。
ポイントは以下の2点ですね。
- ①数字的な根拠をしっかりと示すこと(売上高や売上原価の予測は根拠を持って行う)
- ②経費等に入れる項目は最大漏らさずに入れること
- ③1年後又は軌道に乗った後の列の利益でしっかりと借入金を返済できること
すべて根拠が必要ですよ。
売上は大体これくらいかな~ではなく、たとえば飲食店の売上高であれば「単価×席数×回転数×日数」みたいな形で各々根拠を持って算出するようにしましょう。この辺り、売上や経費等の考え方については下記ページにて公庫が参考情報を公開してくれていますのでそちらも参考にして下さい。
その他、記載例も非常に参考になりますので、自分の業種に近しい記載例は必ずチェックしておきましょう。
なお、創業計画書における利益は「税引前利益」なので、税引後の利益で毎月の借入金返済ができるかもチェックして下さい。また、ここまで書いてきた数値的情報とここでの数字は必ず整合させるようにしてくださいね。
10. 自由記述
自由記述欄では、ここまでの各欄にて表現しきれなかったアピールポイントや熱意を記載しましょう。
悩みや希望するアドバイスなど、ネガティブな事を書いてマイナス評価されないか?という疑問もありますが、それが建設的なものである限り、自分自身や自社のことを客観的に捉えた上で改善策を講じていこうという意思があると判断されるためむしろ高評価となり得ます。
あくまでも建設的なことに限定すべきですが、悩みや希望するアドバイスも何かしら記載してみましょう。公庫の人脈で色々と紹介してくれるはずですよ。
終わりに
ここまで創業計画の書き方について見てきました。初めて創業計画書を書く人からすると「こんなに埋めないと駄目なの?」となって大変かもしれません。
しかし、創業計画書を埋めていくことで創業する事業についてしっかり明確化・可視化することができ、今後どんな事に取り組んでいくべきか?が自然と分かってきます。要は融資の申込も出来て尚且つ事業計画も自然に考えることが出来るという事です。
逆に言えば、創業計画書をしっかりと埋めることが出来ないのであれば、まだまだ創業するのには早いのかもしれません。そんな判断も出来るのが日本政策金融公庫の創業計画書ですね!
なお、顧問契約をして頂ける事が前提ですが、弊社では「無料」で創業融資支援サービスを行っています。これから創業しようと考えている方はぜひご連絡下さい。