不動産賃貸業を営んでいる方から、
「不動産所得しかありませんが、小規模企業共済に加入できますか?」
「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)にも加入できますか?」
「加入できるのであれば、掛金を確定申告で経費にできますか?」
といったご相談をいただくことがあります。
この2つの制度は、どちらも個人事業主が利用できる共済制度ですが、不動産所得のみを有する個人の場合、加入資格と税務上の取扱いが大きく異なります。
結論からいうと、
- 小規模企業共済……一定の事業的規模を満たす不動産賃貸業者であれば加入可能。掛金は全額「所得控除」
- 経営セーフティ共済(倒産防止共済)……一定の要件を満たせば不動産賃貸業者でも加入可能。ただし、掛金を不動産所得の必要経費にはできない
という取扱いになります。
特に経営セーフティ共済については、「加入できる=掛金を経費にできる」ではない点に注意が必要です。
この記事では、不動産所得のみを有する個人事業主について、小規模企業共済と経営セーフティ共済の加入資格、税務上の取扱い、そして両者の違いを法令上の根拠も含めて解説します。
不動産所得者のみの事業者の2つの共済の取扱比較
最初に結論を整理すると、次のようになります。
| 項目 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 |
|---|---|---|
| 不動産所得のみでも加入できるか | 一定の事業的規模等を満たせば可能 | 一定の加入資格を満たせば可能 |
| 不動産賃貸業での主な加入条件 | 原則5棟・10室・50件等 | 原則1年以上事業を継続していること等 |
| 掛金の不動産所得の必要経費算入 | × | × |
| 掛金の所得控除 | ○ 全額控除 | × |
| 不動産所得のみの場合の税負担軽減効果 | あり | 掛金支払時には原則なし |
| 制度の主な目的 | 経営者自身の退職金準備 | 取引先倒産による売掛金等の回収不能への備え |
ここで特に押さえておきたいのが、小規模企業共済の掛金も「不動産所得の必要経費」になるわけではないという点です。小規模企業共済は、必要経費ではなく「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除によって税負担を軽減します。
一方、経営セーフティ共済については、個人の場合、税務上の特例が「事業所得」に限定されています。そのため、不動産所得しかない個人の場合には、加入できたとしても掛金を必要経費として所得から差し引くことができません。
中小企業基盤整備機構も、不動産所得など事業所得以外の収入については掛金の必要経費算入を認められないと明示しています。(参考:経営セーフティ共済の掛金 | 経営セーフティ共済 、租税特別措置法 第28条)
不動産所得のみでも小規模企業共済に加入できる?
結論として、一定の事業的規模を満たしていれば加入できます。
小規模企業共済では、個人事業主として加入する場合、原則として事業所得で確定申告をしていることが求められます。
ただし、不動産賃貸業については例外が設けられており、不動産所得のみで申告している方でも事業と認められる一定規模以上の賃貸を行っていれば加入することができます。
大前提|「事業的規模の不動産賃貸業」でも事業所得になるわけではありません
まず押さえておきたいのが「事業的規模」という言葉です。不動産賃貸業では、いわゆる「5棟10室基準」を満たす場合などに「事業的規模」として取り扱われます。
しかし、「事業的規模の不動産賃貸業 = 事業所得」という意味ではありません。
国税庁も、不動産の貸付けによる所得について、貸付けが事業として行われているかどうかによって税務上の取扱いに違いはあるものの、所得区分そのものは「不動産所得」であるとしています。
たとえば、マンションを20室所有し、本格的に不動産賃貸業を営んでいる場合でも、その家賃収入による所得は原則として「事業所得」ではなく「不動産所得」です。
この違いが、後ほど説明する経営セーフティ共済の税務処理で非常に重要になります。
不動産賃貸業で事業的規模と認められる目安
中小企業基盤整備機構では、次の①または②のいずれかを満たす場合を加入上の「事業的規模」としています。
①次の賃貸規模を満たす場合
- 貸家などを棟単位で貸している場合……5棟以上
- アパート・マンションなど……10室以上
- 駐車場・その他の土地……50先以上
「50先」とは面積ではなく、原則として契約件数を意味します。
②青色申告特別控除55万円または65万円を受けている場合
つまり、必ずしも形式的に5棟10室だけで判断するわけではありません。
中小機構は、青色申告者で55万円または65万円の青色申告特別控除を受けている場合についても、加入上の事業的規模を満たすものとしています。

小規模企業共済の掛金は「必要経費」ではなく「所得控除」
たまに勘違いされている方がおられるので念の為の記載です。
小規模企業共済は経費にはなりません。あくまでも所得控除項目です。それゆえ、事業税の圧縮効果はありません。もちろん、所得控除項目なので所得税・住民税の圧縮効果はありますけどね。
会社員が副業でアパート経営をしている場合|小規模企業共済は加入不可
小規模企業共済については、事業的規模の不動産賃貸業であれば誰でも加入できるわけではありません。
中小企業基盤整備機構は、会社員・サラリーマンが副業としてアパート経営などをしている場合を加入できないケースとして明示しています。給与所得者が別途事業所得を得ている場合についても、常時雇用関係にある給与所得者であれば、原則として個人事業主として小規模企業共済に加入することはできません。
したがって、実際の加入可否を判断する際には、不動産の規模だけでなく、
- 給与所得者か
- 他に本業があるか
- 不動産賃貸業が独立した事業として営まれているか
といった点も確認する必要があります。
経営セーフティ共済は不動産所得のみでも加入できる?
こちらは少し意外かもしれませんが、不動産賃貸業者でも加入自体は可能です。
中小企業基盤整備機構は、不動産賃貸業の個人事業主についても、所定の加入資格を満たせば経営セーフティ共済に申し込むことができると明記しています(参考:不動産賃貸業の個人事業主は加入できますか。|経営セーフティ共済)。
個人事業主の場合、主な要件として、
- 継続して1年以上事業を行っていること
- 所定の従業員数等の中小企業者要件を満たしていること
- 事業所得または不動産所得を得て確定申告していること
- 所得税を滞納していないこと
などがあります。
したがって、「不動産所得しかないから経営セーフティ共済には加入できない」というわけではありません。
経営セーフティ共済の掛金は、なぜ不動産所得の必要経費にならないのか
経営セーフティ共済の掛金については、租税特別措置法第28条に特例が設けられています。
同条では、中小企業倒産防止共済事業に係る掛金を支払った個人について、その支払額をその年分の「事業所得」の金額の計算上、必要経費に算入する仕組みになっています。
経営セーフティ共済自体も、同条第1項第2号に対象となる掛金として明記されています。法律上、「事業所得」の必要経費とは規定されているが、「不動産所得」の必要経費とは規定されていないという事です。
そのため、事業的規模で不動産賃貸業を営んでいたとしても、所得区分が不動産所得である以上、この特例によって掛金を必要経費に算入することはできません。
中小機構の公式FAQでも、不動産賃貸業の個人事業主は加入できる一方、事業所得以外の収入(不動産所得など)については、掛金の必要経費算入が認められないことが明記されています。
つまり、制度上の加入資格と、税法上の必要経費算入要件は別々に判定するということです。
「5棟10室ならセーフティ共済も経費になる」は誤り
くどいようですが、不動産所得では経営セーフティー共済を経費化することは出来ません。
先ほど説明したとおり、5棟10室などの「事業的規模」という判定は、不動産所得が事業所得に変わるという意味ではありません。あくまでも不動産所得の中で「事業的規模か否か」を判定するのが5棟10室基準ですので、お間違いの無いように。
不動産賃貸業で経営セーフティ共済に加入するメリットはある?
税務面だけでなく、制度本来の目的についても確認しておく必要があります。
経営セーフティ共済は、そもそも取引先事業者が倒産し、売掛金債権などが回収できなくなった場合に資金を借り入れるための制度です。
一方、一般的な居住用不動産の賃貸業では、主な取引相手は入居者である一般消費者です。通常の事業会社のように、「取引先に商品を販売して売掛金が残っている」というケースは多くありません。
中小機構も、一般消費者を取引先とする不動産賃貸業者などについては、取引先事業者に対する売掛金債権等が生じないため、共済金貸付けの対象とならない場合があると注意喚起しています。
つまり、不動産所得しかない個人については、①掛金を不動産所得の必要経費にできないことに加え、②制度本来の「取引先倒産への備え」というメリットも利用できない場合があるということです。
そのため、少なくとも節税だけを目的として経営セーフティ共済に加入するメリットは乏しいと考えられます。
まとめ
再掲となりますが、不動産所得のみを有する個人について、両制度の違いをまとめると次のとおりです。
| 項目 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 |
|---|---|---|
| 不動産所得のみでも加入できるか | 一定の事業的規模等を満たせば可能 | 一定の加入資格を満たせば可能 |
| 不動産賃貸業での主な加入条件 | 原則5棟・10室・50件等 | 原則1年以上事業を継続していること等 |
| 掛金の不動産所得の必要経費算入 | × | × |
| 掛金の所得控除 | ○ 全額控除 | × |
| 不動産所得のみの場合の税負担軽減効果 | あり | 掛金支払時には原則なし |
| 制度の主な目的 | 経営者自身の退職金準備 | 取引先倒産による売掛金等の回収不能への備え |
特に注意したいのは、経営セーフティ共済は、不動産賃貸業者でも加入できる場合がある一方、個人の不動産所得から掛金を必要経費として差し引くことはできないという点です。
共済制度を利用する際は、単に「加入できるか」だけでなく、加入後の税務上の取扱いまで確認しておきましょう。
