法人税法上は任意償却である根拠
まずは法人税法上は任意であることの根拠は法人税法上第31条1項です。
内国法人の各事業年度終了の時において有する減価償却資産につきその償却費として第二十二条第三項(各事業年度の所得の金額の計算の通則)の規定により当該事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入する金額は、その内国法人が当該事業年度においてその償却費として損金経理をした金額(以下この条において「損金経理額」という。)のうち、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその内国法人が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額(次項において「償却限度額」という。)に達するまでの金額とする。
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ポイントは赤文字にしたところです。赤文字の部分だけ引っ張ってみましょう。
これを簡単に言うと、「①税務上の損金になる金額は、②会計上経費として処理した減価償却費の金額のうち、③税務上指定されている減価償却方法により計算した金額を上限とする!」と書いております。
いちばん大事なのは②ですね。そうです。
つまり、会計上減価償却費を計上しなければ、法人税法上は減価償却を計上しなくても良い(というか税務上は経費にできない)という事が書かれています。
これをもって、巷では法人税法上減価償却は任意だ!と言われております。
所得税法上は減価償却は強制であることの根拠
一方で所得税法上、減価償却は強制適用であることの根拠は所得税法49条ですね。
居住者のその年十二月三十一日において有する減価償却資産につきその償却費として第三十七条(必要経費)の規定によりその者の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、その取得をした日及びその種類の区分に応じ、償却費が毎年同一となる償却の方法、償却費が毎年一定の割合で逓減する償却の方法その他の政令で定める償却の方法の中からその者が当該資産について選定した償却の方法(償却の方法を選定しなかつた場合には、償却の方法のうち政令で定める方法)に基づき政令で定めるところにより計算した金額とする。
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赤文字のところだけ抜粋します。
「必要経費に算入する金額は、政令で定めるところにより計算した金額とする」
と書かれていますね。
法人税法のように「損金経理をした金額のうち」とか「達するまでの金額」などの回りくどい言い回しがありません。
ストレートに政令で定めるところにより計算した金額を必要経費に算入する!と書いていますね。つまり、所得税法上は「今年は減価償却費計上するの止めとこう!」とかは出来ず、強制的に償却しなければならないという事になるわけです。
【参考】更正の請求は出来るOR出来ない?
では、誤って減価償却費を計上していなかった場合に更正の請求は出来るのか?を考えてみましょう。
この点、所得税法上は更正の請求可能です。うっかり減価償却費を計上するのを忘れて多めに税金を払ってしまっていたような場合には更正の請求をすることで税金が戻ってきます。なぜなら所得税法上は減価償却は強制適用ですので、当然に費用になるべきものだからです。
一方で、法人税法上は後から減価償却費を経費にしたい!と考えても更正の請求は出来ません。なぜなら、法人税法上は、減価償却費の計上は損金経理要件が課せられているからですね(任意償却)。
既に確定した決算で減価償却費を計上しなかったということは、税務上は減価償却費を計上しないことを選択したという事になりますので、更正の請求は出来ないわけです。
まとめ
所得税法上は強制適用ですので関係ないのですが、法人税法上減価償却費の計上が任意と言われているので「融資のために減価償却費を止めたほうが良いのか問題」というのがあります。要は赤字だと融資が出にくくなるので減価償却師をストップして黒字化することで融資が出やすくなるのでは?という話ですね。
この点、結論から言うと、法人が減価償却費の計上をストップしたところで融資判断に影響はありません。
なぜなら、銀行は、減価償却不足を補正・是正して実態財務諸表で判断するので小手先の手法で黒字化してもすぐバレるから。
この辺の詳細について深堀りした記事を下記で書いておりますので興味のある方は是非。