中小企業の経営者が会社からお金を貰う方法として最もオーソドックスな方法は、「役員報酬」として払い出す事ですよね。
しかし、中小企業は「経営者=株主」であるケースが多く、社長が100%株式を所有している事も珍しく有りません。
その場合、役員報酬ではなく「配当金(剰余金の配当)」として払い出した方が得なケースも有るのです!どういう事なのか、以下で詳しくていきましょう。
給与所得控除の引き下げで配当金での支給を考える必要性が増した!
そもそも、なぜ役員報酬ではなく配当金として受け取る事を考える必要性が生じたのか?
というと、近年給与所得控除の見直しが行われ、給与所得控除額の上限金額が引き下げられ続けているからです。
給与所得控除の上限額(及び上限額が適用される給与収入)を時系列で見ていくと以下のようになります。
年分 | 上限額が適用される給与収入 | 給与所得控除の上限額 |
---|---|---|
平成25年~平成27年 | 1,500万円 | 245万円 |
平成28年 | 1,200万円 | 230万円 |
平成29年~令和元年 | 1,000万円 | 220万円 |
令和2年以降 | 850万円 | 195万円 |
割と短いスパンでかなり上限額が下がっていってますね。高額所得者にとっては頭の痛い話です。
そこで、給与(役員報酬)に頼ってばかりいては損をする!という事で、他の手段、つまり「配当金」が登場するという訳ですね。
配当金にも税金はかかる!
役員報酬を支払うと、「給与所得」として所得税や住民税が課税されますよね。課税されるという点では、配当金でも変わりは無く「配当所得」として税金の計算をする事になります。
なお、個人の株主が配当金を受け取った場合、受取時に源泉徴収が必要です。そして、源泉徴収される所得税率は20.42%です(No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)|国税庁)。結構高いですよね。
しかも、配当金は会社が得た利益から法人税等を支払って残った分を元手にして払う事になります。
既に法人で税金が課されているのに、さらに個人で所得税が課されるという、いわゆる二重課税の状態ですね。但し、二重課税については以下の方法で回避されています。
配当控除で二重課税を回避!
上記の様な二重課税を回避すべく、個人が受け取った配当金については配当控除(税額控除)という制度が設けられています。
具体的には、配当控除では原則として配当金の10%をその年の所得税から差し引く事ができ(所得税法第92条)、住民税は2.8%分差し引きされるのです(地方税法付則第5条第1項1号・第3項1号)。
簡単な例を見てみましょう(配当金以外に所得がない前提で、所得控除は基礎控除のみ、復興特別所得税及び住民税均等割は無視)。
配当金として150万円を受け取った場合、配当所得は150万円なので、所得税額は5.6万円{(150万円−38万円)×5%}、住民税は11.7万円{(150万円−33万円)×10%}ですね。
ここから配当控除を差し引く事になります。所得税は15万円(150万円×10%)、住民税は4.2万円(150万円×2.8%)が配当控除の金額です。
従って、最終的に負担すべき所得税の額は0円(5.6万円−15万円・・・ゼロを下回る場合はゼロ)、住民税の額は7.5万円(11.7万円−4.2万円)となります。
いかがですか?配当金として貰ったとしても、配当控除により個人が負担すべき税額は抑えられる事が分かりましたね。
どっちの方が有利?役員報酬と配当金収入とを比較!
では、実際のところ役員報酬として会社から貰うのと、役員報酬と配当金の両方を貰うのとではどちらが得なのでしょうか?
以下で、「年間の役員報酬が300万円だったケース」と「年間の役員報酬が100万円と配当金が200万円だったケース」についてどっちがお得か比較してみましょう。
なお、法人が前提なので法人税等・所得税・住民税の他に社会保険料も含めて損得を考えていきます。
①法人税等
法人税等については、「法人税・住民税・事業税」の合計が所得金額の23%かかる、という前提で概算を見ていきましょう(分かりやすくする為に、費用は役員報酬と社会保険料のみにしています。)
項目 | 役員報酬(300万)の場合 | 役員報酬(100万)+配当金(200万)の場合 |
---|---|---|
法人の収益 | 800万円 | 800万円 |
法人の費用 | 345万円(役員報酬300万円+会社負担の社会保険料45万円) | 115万円(役員報酬100万円+会社負担の社会保険料15万円) |
課税所得 | 455万円(800万円−345万円) | 685万円(800万円−115万円) |
①法人税等 | 104.65万円(455万円×税率23%) | 157.55万円(685万円×税率23%) |
配当金は法人税額を計算する上での費用(損金)とはならないので、役員報酬として払い出した方が法人税額は低くなりましたね。
②所得税
次に所得税について見てましょう(分かりやすくする為に、復興特別所得税は無視しています。)
項目 | 役員報酬(300万)の場合 | 役員報酬(100万)+配当金(200万)の場合 |
---|---|---|
所得合計 | 202万円(給与収入300万円−給与所得控除98万円) | 245万円(給与所得45万円(給与収入100万円−給与所得控除55万円)+配当所得200万円) |
所得控除 | 93万円(基礎控除48万円+社会保険料控除45万円) | 63万円(基礎控除48万円+社会保険料控除15万円) |
課税所得金額 | 109万円(202万−93万円) | 182万円(245万円−63万円) |
所得税額 | 5.45万円(109万円×5%) | 9.1万円=182万円×5% |
配当控除 | − | 20万円(200万円×10%) |
②差引所得税額 | 5.45万円 | 0円(9.1万円−20万円)・・・ゼロを下回る場合はゼロ |
配当を貰った場合は、配当控除の影響で所得税額がゼロになっていますね。一方の役員報酬のみの場合は配当控除が受けられないので、所得税額が発生しています。
③住民税
住民税はどうでしょうか(分かりやすくする為に、均等割は無視しています。)
項目 | 役員報酬(300万)の場合 | 役員報酬(100万)+配当金(200万)の場合 |
---|---|---|
所得合計 | 202万円 | 245万円 |
所得控除 | 88万円(基礎控除43万円+社会保険料控除45万円) | 58万円(基礎控除43万円+社会保険料控除15万円) |
課税所得金額 | 114万円(202万円−88万円) | 187万円(245万円−58万円) |
住民税額 | 11.4万円(114万円×10%) | 18.7万円(187万円×10%) |
配当控除 | − | 5.6万円(200万円×2.8%) |
③差引住民税額 | 11.4万円 | 13.1万円 |
住民税については、配当控除の影響を加味しても配当を貰わないほうがお得ですね。
④社会保険料
最後に社会保険料です。
社会保険料は、毎月の役員報酬額で決まります。従って、役員報酬のみの方が負担額は大きいです。
社長のお金と同視出来ますからね。
項目 | 役員報酬(300万)の場合 | 役員報酬(100万)+配当金(200万)の場合 |
---|---|---|
④社会保険料 | 90万円(会社負担45万円+個人負担45万円) | 30万円(会社負担15万円+個人負担15万円) |
結果を見ると、配当金を貰った方が社会保険料の負担額はかなり抑えられいる事が分かりますね。
①〜④までの合計で比較してみるとどうなるでしょうか。
項目 | 役員報酬(300万)の場合 | 役員報酬(100万)+配当金(200万)の場合 |
---|---|---|
①法人税等 | 104.65万円 | 157.55万円 |
②差引所得税額 | 5.45万円 | 0円(9.1万円−20万円) |
③差引住民税額 | 11.4万円 | 13.1万円 |
④社会保険料 | 90万円(会社負担45万円+個人負担45万円) | 30万円(会社負担15万円+個人負担15万円) |
合計負担額(①+②+③+④) | 211.5万円 | 200.65万円 |
役員報酬と配当金を組み合わせて支払った方が、トータルの負担額は10万円弱安く済みましたね
いかがですか?
「カラクリが分からない!」という方もいるかもしれないですが、基本的にはこれらの差額が生じた原因は配当控除と社会保険料です。
役員報酬を減らすと、以下の様な流れを辿る事になります。
「役員報酬が減る」⇒「社会保険料の金額が減る」⇒「会社の利益が増える」⇒「法人税が増える」
その結果、税引後の利益も増えるので配当に回す資金に余裕が出来ます。しかし、配当をしても配当控除が有るので、所得税や住民税の負担はそれほど増えません(むしろ減る事になります)。
従って、トータルで考えると役員報酬の金額を増やすよりも、配当金として払い出した方が自由に使えるお金が増える事になるのです。
では、具体的にはどの様な条件下であれば、配当金を支払った方が良いのでしょうか?
この点、法人の課税所得が800万円以下で、配当所得と給与所得の合計額が330万円以下(超過累進税率で10%)であれば、役員報酬を増やすよりも配当金で払い出した方が得する可能性有り!と考えられます。
まとめ
いかがでしたか?単純に役員報酬として会社からお金を払い出すよりも、配当金も組み合わせて払い出した方がトータルでは得するケースが有るという事ですね。
しかし、会社と個人の税金を組み合わせてどちらがお得かを考えるのは、なかなか手間がかかります。顧問税理士がいる場合は、一度試算をお願いしてみてはいかがでしょうか。