青色申告をしている法人が受けられる恩恵はいくつか有りますが(関連記事:法人の青色申告って何?特典や要件・手続きのおさらい)、その中で欠損金に関するものとして「欠損金の繰越控除」と「欠損金の繰戻しによる還付(繰戻還付)」が有ります。
この2つは名前が似ていますが、それぞれの違いは知っていますか?
また、繰戻し還付を利用する方はそれほど多くないでしょうが、「使った方が得になるケースが有る」事を知らない方が意外に多いと思います。「面倒だから繰越控除でいいや」と思っていると損をするかもしれないですよ!
ここでは、欠損金の繰越控除と繰戻還付について詳しく見ていきましょう。
欠損金の繰越控除とは?
欠損金の繰越控除とは、「各事業年度で発生した欠損金額を翌事業年度以降に繰り越し、各事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入する事」をいいます(法人税法第57条)。
赤字を翌年以降に繰り越して、黒字になった年に相殺する事が出来るので納める税金が安くなる、というメリットが有りますね。
言葉で見ても分かりにくいかもしれないので、簡単に表で見てみましょう。
第1期 | 第2期 | 第3期 | 第4期 | |
---|---|---|---|---|
税引前当期純利益 | -100万円 | -200万円 | 200万円 | 200万円 |
繰越欠損金額 | -100万円 | -300万円 | -100万円 | 0万円 |
課税所得 | 0万円 | 0万円 | 0万円 | 100万円 |
第1・2期が赤字だった為に、繰越欠損金が発生しています。第3期は黒字となりましたが、前期までに繰り越された欠損金が有るので、最終的な所得はゼロです。そして、第4期目に過去の欠損金を使い切り、初めて所得が残る事になります。
この様に、過去に赤字が出た場合に、翌事業年度以降に赤字を繰り越して黒字と相殺していく事が出来るのです。
欠損金の繰越控除には、適用出来る法人や繰越出来る年数など色々な決まりが有ります。以下で順番に見ていきましょう。
欠損金の繰越控除が出来る法人の条件
欠損金の繰越控除が出来るのは、以下の条件を満たす法人です。
- 欠損金額が生じた事業年度に、青色申告による確定申告書を提出している
- その後の各事業年度について、連続して確定申告書を提出している
欠損金額が生じた事業年度に青色申告をしていれば良いので、欠損金を使う(損金算入する)事業年度が白色申告であっても構いません。
また、過去の繰越欠損金を使うには連続して確定申告書を提出しておく必要が有ります。従って、一時的に休業し損益が発生していない様な場合でも、将来的に欠損金を使おうと考えているのであれば、毎事業年度確定申告書を提出しておく必要が有りますね。
なお、期限後申告であっても青色申告である限り欠損金の繰越は可能なので、期限後になったとしても必ず申告しましょう!
欠損金の繰越が出来る期間は10年!(平成30年3月31日以前は9年以内)
欠損金の繰越は、何年でも無制限に出来る訳では有りません。以下のようにいつ発生した欠損金なのかによって繰越し出来る年数が決まっています。
欠損金が発生した事業年度 | 繰越し出来る年数 |
---|---|
平成13年4月1日前に開始した事業年度 | 5年 |
平成13年4月1日以降開始した事業年度から平成20年4月1日前に終了した事業年度まで | 7年 |
平成20年4月1日以後終了した事業年度から平成30年4月1日前に開始する事業年度まで | 9年 |
平成30年4月1日以降に開始する事業年度 | 10年 |
次第に繰越出来る期間が長くなっている事が分かりますね。
なお、4月1日が繰越出来る年度の変わるタイミングなので、3月決算の会社であれば何年繰り越せるのか悩む事はあまり無いでしょう。一方で、3月決算以外の場合は何年繰越が出来るのかをきちんと把握しておかないと、間違えかねませんね。
特に、繰越年数が7年のところだけは「終了した事業年度」で考えるので、若干ややこしいですね(とはいっても、平成20年4月1日前に終了した事業年度の欠損金は既に期限切れになっていて使えないですけどね。)
ちなみに、繰越欠損金は古い事業年度のものから順次使っていく事になります(参照元:国税庁「法人税法基本通達12−1−1」)。新しい事業年度のものから使ってしまうと、古い欠損金が使えなくなってしまいますからね・・・。
繰越控除出来る欠損金額〜会社の規模によって違う!?〜
繰越控除される欠損金額は、各事業年度が開始する日前10年以内に開始した事業年度で生じた欠損金額です。
但し、過去から繰り越された欠損金がたくさん有るからといって、その事業年度の所得金額を上回る欠損金額を使う事は出来ません(下記の事例参照)。
繰越欠損金の額が200万円、繰越欠損金控除前の所得金額が80万円だった場合、200万円のうち80万円だけ損金の額に算入出来ます。その結果、当事業年度の所得金額はゼロです。
残った120万円の欠損金額は翌事業年度に繰り越されます。
また、繰越欠損金として使える金額は、「中小法人等に該当するかしないか」で異なります。
中小法人等に該当する場合は、繰り越された欠損金額の全額が適用対象となりますが、中小法人等以外の場合は繰越控除前の所得金額に以下の率を乗じた金額が控除限度額です(参考:No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除|国税庁)。
事業年度 | 割合 |
---|---|
平成24年4月1日〜平成27年3月31日の間に開始する事業年度 | 80% |
平成27年4月1日〜平成28年3月31日の間に開始する事業年度 | 65% |
平成28年4月1日〜平成29年3月31日の間に開始する事業年度 | 60% |
平成29年4月1日〜平成30年3月31日の間に開始する事業年度 | 55% |
平成30年4月1日以降に開始する事業年度 | 50% |
なお、ここでいう中小法人等とは以下の法人を指しています(法人税法第57条11項)。
- 普通法人のうち、資本金(出資金)の額が1億円以下又は資本若しくは出資を有しないもの(注:普通法人は「投資法人」「特定目的会社」「受託法人」を除く。また、100%子法人等も除きます。)
- 公益法人等
- 協同組合等
- 人格の無い社団等
繰越欠損金の仕訳〜税効果会計を適用している会社の場合〜
繰越欠損金が発生した場合、税効果会計では一時差異に準ずるものとして扱うので、以下のような仕訳が必要となります(前提:繰越欠損金の金額は200万円、実効税率は40%)。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
繰延税金資産 | 800,000 | 法人税等調整額 | 800,000 |
法人税の申告書上は、別表4で800,000円を減算し別表5-1で△800,000円を増加欄に記載する事になります。
そして、繰越欠損金を翌事業年度以降に全額損金算入した場合は、以下の仕訳をきりましょう。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
法人税等調整額 | 800,000 | 繰延税金資産 | 800,000 |
法人税の申告書上は、別表4で800,000円を加算し、別表5-1では△800,000円を減少欄に記載します。
欠損金の繰戻しによる還付
次に「欠損金の繰戻しによる還付」です。これは「欠損金額が生じた場合に、その欠損金額を事業年度開始前1年以内に開始した事業年度に繰り戻して、納付した法人税額の還付請求をする事が出来る」という制度です(法人税法第80条)。
欠損金の繰越控除では、将来払う税金が減りましたが、繰戻還付では過去に払った税金が還付される事になります。
以下で、適用条件や還付金額の計算方法などを見ていきましょう。
繰戻還付請求が出来る法人及び適用要件
繰戻還付が請求出来るのは、「青色申告書を提出している法人」です(参照元:No.5763 欠損金の繰戻しによる還付|国税庁)。
特に会社規模の制限などはないので、青色申告をしてさえいれば適用対象となります。
そして、繰戻還付を受けるには以下の条件全てを満たしている事が必要です。
- ①・・・還付所得事業年度から欠損事業年度の前事業年度までの各事業年度で、連続して青色申告による確定申告書を提出している
- ②・・・欠損事業年度の確定申告書を提出期限までに提出している
- ③・・・②の申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出する
還付金額の計算方法
繰戻還付により還付請求出来る金額は、以下の計算式で算出します。
なお、「欠損事業年度の欠損金額」は還付金額の計算基礎として還付請求書に記載した金額が限度です。また、分母の「還付所得事業年度の所得金額」が限度となります。
例えば、前事業年度の所得が600万円、法人税額が90万円、当事業年度の欠損金額が300万円だった場合、還付請求出来る法人税の金額は「900,000円×3,000,000円÷6,000,000円=450,000円」です。
参考:繰戻還付請求をすると、還付される法人税に対して還付加算金が上乗せされる事も有ります(国税通則法第58条)。還付加算金は、雑収入(益金)として処理しましょう(消費税は不課税)。
欠損金の繰戻還付請求をすれば、地方法人税も取戻せる!
平成26年10月1日以降に開始した事業年度から、地方法人税(地方と付いていますが国税です)が課されています。地方法人税の額は「法人税額×10.3%」で計算されます。
繰戻還付請求をすれば、この地方法人税も一緒に還付される事になりますよ。
繰戻還付請求をしても法人住民税や法人事業税は還付されない!?
これは、ちょっとした落とし穴ですね。
欠損金の繰戻しによる還付請求は、法人税法上認められた制度です。従って、還付請求書を提出しても法人住民税や法人事業税の還付を受ける事は出来ません。
但し、法人住民税については「控除対象還付法人税額」として、欠損金が生じた翌事業年度以降に「繰越控除」を受ける事が出来ます(地方税法第53条12項・第321条の8第12項)。
忘れない様に申告書(法人都道府県民税は第6号様式別表2の3、法人市町村民税は第20号様式別表2の3)に記載する様にしましょう。
なお、法人事業税には法人住民税の様な「控除対象還付法人税額」の制度が有りません。従って、法人税上の繰越欠損金と法人事業税上の繰越欠損金の金額は、繰戻還付請求分だけずれる事になるので注意しましょう。
注:大企業では繰戻還付は適用停止中→中小企業者はOK!
繰戻し還付について条件などを書いて来ましたが、この制度は中小企業者等以外の法人の平成4年4月1日〜令和8年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額について、適用停止中です(参照元:租税特別措置法第66条の12)。
しかし、中小企業者以外の場合でもあっても
- ①清算中に終了する各事業年度の欠損金額
- ②解散等の事実が生じた場合の欠損金額
- ③災害損失欠損金額
- ④銀行等保有株式取得機構の欠損金額
に該当する場合は、欠損金の繰戻し還付制度の利用が可能です。
中小企業者等とは?
繰戻し還付制度における、「中小企業者等」とは以下のような法人を指しています。
- 普通法人のうち、その事業年度終了の時において資本金(出資金)の額が1億円以下又は資本若しくは出資を有しないもの (注:大法人との間に完全支配関係がある会社は対象外です。)
- 公益法人等又は協同組合等
- 法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされる法人
- 人格のない社団等
大雑把に言えば、「資本金1億円以下」の法人なら適用可能ですよ!
繰戻還付請求をする場合の仕訳
前事業年度に発生した所得に対して法人税を納付していて、当事業年度に欠損金が発生した場合、前事業年度に納付した法人税額は繰戻還付請求をする事によって還付を受ける事が出来ます。
この際、還付請求をした事業年度には以下のような仕訳をきりましょう。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未収還付法人税等 | 200,000 | 雑収入 | 200,000 |
なお、中間申告により中間納付額が有る場合は、仮払法人税等の金額を取り崩し、差額を雑収入等として計上します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
未収還付法人税等 | 200,000 | 仮払法人税等 | 100,000 |
雑収入 | 100,000 |
そして、翌事業年度に実際に法人税が還付された際に、以下の仕訳をきります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
現預金 | 200,000 | 未収還付法人税等 | 200,000 |
欠損金額の過小計上が判明した場合、更正の請求をしても還付金は増えない!?
確定申告時に繰戻し還付請求をしたものの、後になって申告誤り等により当該事業年度の欠損金額が過小計上されていた事が判明した場合、還付額は増えるのでしょうか?
この点、法人税法基本通達17-2-2では還付請求時の欠損金額をもって還付金額を計算する事となっています。
従って、更正の請求等をしたとしても、還付金額は修正する前の所得金額を基に算定されるので、還付される金額が増える事は有りません。
欠損金の繰越控除よりも繰戻還付をした方がお得なケースも有る!?
欠損金の繰越控除を使えば、将来所得が発生しても欠損金を損金算入して税金を減らす事が出来ます。従って、敢えて繰戻還付をする必要は無さそうな気がしますよね。
しかし、場合によっては繰戻還付をした方がお得な事も有ります。
それは、法人税率が前事業年度よりも下がっている場合です。
最近は税制改正が有る度に、徐々に法人税率が下がっていく傾向に有ります(参照元:法人課税に関する基本的な資料 : 財務省)。つまり、前事業年度よりも当事業年度の方が税率は低い事が多いのです。
税率が下がっても繰越控除や繰戻還付に使うことの出来る繰越欠損金額は同じですよね。であれば、法人税率が高い事業年度で欠損金を使った方がお得なのです。
以下で簡単な計算例を見てみましょう。
1〜3期までの所得及び税率が以下の通りだったとします(第3期末は平成26年3月31日)。
事業年度 | 課税所得 |
---|---|
第1期 | 700万円 |
第2期 | -500万円 |
第3期 | 700万円 |
2期目に繰戻還付請求をした場合と、2期目の欠損金額を3期目に繰越した場合とでの税額負担は以下の通りとなります。
事業年度 | 繰戻還付 | 繰越控除 | 法人税率 |
---|---|---|---|
第1期 | 210万円 ※1 | 210万円 | 18% |
第2期 | -150万円 ※2 | 0万円 | 15% |
第3期 | 178.5万円 | 51万円 ※3 | 15% |
合計 | 238.5万円 | 261万円 | – |
※1:700万円×18%
※2:126万円×500万円÷700万円
※3:(700万円−500万円)×15%
1期と比べると2・3期目の法人税率が低いので、繰戻還付を選択した方がトータルの法人税負担額は少ない事が分かりますね。
但し、上の例では中小企業の軽減税率が適用されています。前事業年度の所得が800万円以下で法人税が安く済んだ一方で、翌事業年度は所得が800万円を超えそうだという場合は、逆に繰戻還付よりも繰越控除を使った方が得する可能性は高いです。
これも簡単な計算例を見てみましょう。1〜3期までの所得及び税率が以下の通りだったとします(第3期末は平成31年3月31日)。
事業年度 | 課税所得 |
---|---|
第1期 | 1,200万円 |
第2期 | -500万円 |
第3期 | 1,200万円 |
2期目に繰戻還付請求をした場合と、2期目の欠損金額を3期目に繰越た場合とでの税額負担は以下の通りとなります。
事業年度 | 繰戻還付 | 繰越控除 | 法人税率 |
---|---|---|---|
第1期 | 213.6万円 ※1 | 213.6万円 | 15%(800万円以上は23.4%) |
第2期 | -89万円 ※2 | 0万円 | 15%(800万円以上は23.4%) |
第3期 | 213.6万円 | 105万円 ※3 | 15%(800万円以上は23.2%) |
合計 | 338.2万円 | 318.6万円 | – |
※1:800万円×15%+(1,200万円−800万円)×23.4%
※2:213.6万円×500万円÷1,200万円
※3:(1,200万円−500万円)×15%
この計算例の場合は、繰越控除を選択した方が得だという事が分かりますね。
結果として言えるのは、過去の税率だけでなく将来見込まれる所得も加味して、どちらを選ぶかを判断していく事が必要という事ですね。
まとめ
基本的には欠損金の繰越控除と繰戻還付とでは、前者の方が使うケースは多いでしょうが、場合によっては繰戻還付の方が有利になるケースも有る事が分かりましたね。
なお、条件のところで書きましたがどちらも青色申告をしている事が条件です。白色申告をしている方(法人の場合はとんどいないですが)は、青色申告に切り替える事を忘れずに。