会社の業績が安定して預金も増えてくると、金融機関から、
「そろそろ自社ビルを建てませんか?」
と提案されることがあります。
例えば現在の家賃が月80万円なら、年間960万円です。
「年間960万円を払い続けるくらいなら、借入金で自社ビルを建てて、ローン返済後に土地・建物が残った方が得なのでは?」
と考えるのも自然でしょう。
ただし、自社ビルは数千万円から数億円規模の大きな投資です。特に確認してほしいのが、**自社ビル取得後の「債務償還年数」**です。

銀行が貸してくれる金額と、会社が借りてもよい金額は必ずしも同じではありません。以下、詳しく見ていきましょう!
自社ビルは基本的に「収益を生まない投資」であると認識すべし
自社ビルについて考える際、まず押さえておきたいのがこの点です。自社ビルは基本的に収益を生みません。
例えば製造業者が3,000万円の機械を導入し、その結果として年間1,000万円の利益が増えるのであれば、借入金は増えますが返済原資も増えます。一方、自社使用のビルを1億5,000万円で建てても、それだけで売上が1億円増えるわけではありません。
もちろん、家賃が不要になることによるコスト削減や、業務効率の向上などはあります。
しかし基本的には、
「借入金は大きく増えるのに、本業から生まれるキャッシュ・フローはそれほど増えない」
という特徴があります。
だからこそ、自社ビル取得では債務償還年数を見ることが重要になります。
【徹底】自社ビルを建てるなら「債務償還年数」を確認しよう
債務償還年数とは、簡単に言えば、「現在の借入金を、会社が生み出すキャッシュ・フローで何年かけて返済できるかを表す指標」です。
当事務所では、一般的な計算方法として次の式を紹介しています。
金融機関によって計算方法や評価基準には違いがありますが、当事務所では最低限10年未満、できれば7年未満を一つの目安としています。債務償還年数が7年未満であれば金融機関からして超優良企業と判断してもらえる可能性が高くなりますよ。
借入後の債務償還年数が何年までなら、自社ビルを検討してよいのか?
私は自社ビルを建てることはあまり推奨していないのですが、そうは言ってもお金が余っていたりすると、どうしても我慢しきれない人も一定数います。そういう人のために一応、買っても良い目安みたいなものを紹介しておきます。
- 5年未満・・・比較的余裕あり。積極的に検討可能
- 5年以上7年未満・・・十分検討できる水準
- 7年以上10年未満・・・慎重に判断したい
- 10年以上・・・原則として見送り寄り
もちろん、これだけで機械的に決めるものではありません。
ただ、自社ビルは基本的に新たな収益を直接生み出さないため、取得した結果10年ギリギリになるような借入はおすすめしにくいです。
今後設備投資などを鑑みても、出来れば7年未満以内で収めておきたいですね。以下、具体例で見てみましょう。
具体例① 取得後5.6年なら検討しやすい
例えば、次のような会社があったとします。
有利子負債 5,000万円
正常運転資金 2,000万円
年間CF 2,500万円
現在の債務償還年数は、
(5,000万円-2,000万円)÷2,500万円=1.2年
です。かなり借入余力があります。
ここで1億5,000万円の自社ビルを、「自己資金3,000万円+銀行借入1億2,000万円=合計1億5,000万円」でで取得するとします。
取得後の有利子負債は、
5,000万円+1億2,000万円=1億7,000万円
です。
家賃がなくなる一方、固定資産税、修繕費、支払利息などが発生することを考慮し、取得後のCFが2,700万円になると仮定します。すると、
(1億7,000万円-2,000万円)÷2,700万円=約5.6年
となります。
取得前の1.2年からは大きく悪化しますが、それでも7年未満です。
このくらいであれば、手元資金など他の条件に問題がなければ、自社ビルを検討してもよい水準でしょう。
具体例② 取得後10年になるなら話は変わる
一方、別の会社を考えてみます。
有利子負債 1億2,000万円
正常運転資金 2,000万円
年間CF 2,000万円
現在の債務償還年数は、
(1億2,000万円-2,000万円)÷2,000万円=5年
です。
現在の状態だけなら、それほど問題はありません。
しかし、ここで先ほどと同じように1億2,000万円を追加で借りて自社ビルを購入すると、有利子負債は2億4,000万円になります。取得後のCFが2,200万円になるとすると、
(2億4,000万円-2,000万円)÷2,200万円=10年
です。
ここまで来ると、かなり慎重に考えたいです。業績が20%落ちてCFが1,760万円になれば、「2億2,000万円÷1,760万円=12.5年」まで一気に悪化します。
そのタイミングで、
「新しい機械を買いたいので3,000万円借りたい」
となっても、金融機関から見た追加融資余力はかなり小さくなっている可能性があります。つまり、自社ビル取得によって、将来の本業への融資枠まで使ってしまうわけです。
自社ビルの取得が本業に悪影響を及ぼすことだけは避けたいので、ここまでくると要検討ですね。
【要注意】「20年ローンだから大丈夫」とは限らない
ここも間違えやすいポイントなのですが、金融機関から
「20年返済なので年間返済額はそれほど大きくありません」と言われたら要注意。
借入期間20年と債務償還年数20年はまったく別の話です。
銀行が20年で貸してくれることは、「20年間なら安全に返せる」という意味ではありません。
会社の本業が生み出す返済原資に対して借入金が多すぎないかを見るために、債務償還年数を別途確認する必要があります。
なお、不動産投資では債務償還年数が10年を超えるケースもあります。実際、当事務所の債務償還年数の記事でも、不動産投資では20年程度になる場合があると説明しています。
ただし、賃貸不動産と自社使用のビルは分けて考えるべきです。
賃貸不動産なら、その不動産自体が家賃収入を生み借入金の返済原資になります。しかし、自社ビルは原則として家賃収入を生みません。返済原資はあくまで本業の収益からという事になります。
したがって、
「不動産だから債務償還年数20年でもいい」という考え方は自社ビルには当てはまりませんのでご注意下さい。
まとめ|自社ビルは「取得後7年未満」を一つの目安に
自社ビルを建てるべきか迷ったとき、まず取得後の債務償還年数を確認して下さい。目安を再掲しておきます。
そういう人のために一応、買っても良い目安みたいなものを紹介しておきます。
- 5年未満・・・比較的余裕あり。積極的に検討可能
- 5年以上7年未満・・・十分検討できる水準
- 7年以上10年未満・・・慎重に判断したい
- 10年以上・・・原則として見送り寄り
おすすめは債務償還年数7年で考えることですね。自社ビルは、収益物件のように直接家賃収入を生み出す資産では無いので厳しめに見ておいた方が良いです。
「家賃よりローンの方が安いから借入して自社物件を建てよう」でも、「銀行が貸してくれるから」でもなく、
「自社ビル取得後も債務償還年数7年未満を維持できるか、十分な手元資金と本業への投資余力を残せるか。」
を判断基準にして決定するようにして下さいね!
