法人の節税対策としてよく使われる方法として、「社宅家賃を経費計上する」というものが有ります。
住居費は、会社の経営に関わらず役員や従業員個人に発生しているものなので、それを会社の経費に出来るのであれば嬉しい限りですよね。
しかし、社宅家賃はやり方を間違えると給与課税となる事も有るので、手順やコツをしっかりと学んでおきましょう。
社宅家賃補助をする場合、賃貸契約は会社名義で!
基本的に、自宅のアパートやマンションなどを借りる際、契約は個人名義でしている方がほとんどでしょう。
しかし、会社で社宅家賃を経費にする場合は、会社名義で賃貸契約の締結をする事を忘れずに!
これは従業員や役員を問わず、です。
従業員等の名義で契約している住居の家賃を、会社が従業員等に対して現金で支給する場合は、社宅を貸しているとは言えず「住居手当」を支給しているのと同じですよね。従って、支給額は給与として扱われます。
会社が家主等と直接賃貸借契約を結び、そこに社長や従業員が住む代わりに給料から社宅使用料として天引きして初めて、社宅家賃として認められる事を忘れずに。
社会保険料や所得税・住民税の負担が軽減!
一般的に、社宅を会社で用意して家賃の一部を会社が負担する事になった場合、元々の給与額面から会社負担分だけ減額する事になりますよね。
そうすると、会社の総負担額は社宅の有無であまり変わらない(※)ですが、個人の所得税や住民税には大きな影響が出て来ます。また、給与の額に応じて増減する社会保険料も減る事になるので、いい事尽くしですね。
なお、社会保険料については「社宅にすると標準報酬月額に含めなくても良い」と考えている方が多い様な気もしますが、実際は違います。
現物給与の価額については、厚生労働省告示によって決められており、定められた金額を超える家賃を会社が負担している場合は、標準報酬月額に含めなければなりません。
社宅にかかる現物給与の価額は、畳1畳当たりの金額が定められており、都道府県によって異なります。例えば、東京都では1畳当たり2,830円で、大阪府は1,780円です。(参照元:日本年金機構「全国現物給与価額一覧表」令和5年4月以降の分より)
実際に計算例を見てみましょう。
会社が社宅(東京都・12畳)を用意しており、本人負担が1万5千円だった場合、現物給与の価額は2,590円×12畳=31,080円です。
ここから本人負担の金額を差し引くので、最終的な現物給与の価額は16,000円(31,080円−15,000円)となります。従って、16,000円が現物給与として標準報酬月額算定の基礎に含まれる事になりますね。
社宅家賃に関する規定を事前に作っておく!
社宅家賃を経費にする際に重要なポイントは、社内で社宅に関する規定を事前に作っておく事です。社内的にも重要ですし、税務調査時に規定が無いと問題になりかねません。
- 家賃をいくらまで会社が負担するか
- 家賃以外の費用(光熱費や町内会費)などの負担方法
- 社宅に住む事の出来る対象者の範囲
などを明確に会社のルールとして定めておきましょうね。
なお、社会保険労務士法人名南経営(サイトの運営は株式会社名南経営)が「借上げ社宅管理規定」の例を公開しているので、参考にしてみて下さい。
社宅家賃控除額の算定方法と相場〜控除額が少ないと給与課税になる!?〜
社宅使用料として従業員や役員から徴収すべき金額は、国税庁がその計算式を公表しています。
計算式で算出した金額以上の家賃相当額を役員や従業員から徴収していないと、不足分は給料として課税されてしまうので、注意が必要です(所得税法第36条第1項、所得税法基本通達36−15)。
以下で、従業員に社宅を貸した場合と役員に社宅を貸した場合のそれぞれについて、徴収すべき家賃相当額の計算式を見てみましょう。
従業員に社宅を貸した場合
従業員に社宅を貸した場合は、1ヶ月当たり以下の3式の合計額以上を「賃料相当額」として受け取っていれば、給与して課税されない事になっています。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
上記3計算式で求めた合計金額よりも受け取っている家賃が少ない場合、賃料相当額と実際に受け取っている家賃との差額が給与として課税される事になります。
但し、徴収額が賃料相当額に満たない場合は原則としてその差額が給与として課税されますが、賃料相当額の50%以上受け取っていれば、給与して課税されません。従って、上の例では7,500円以上徴収していれば、足りない分に対して給与課税される事は有りません(参照元:国税庁「タックスアンサー 使用人に社宅や寮などを貸したとき」)。
なお、固定資産税の課税標準額は固定資産課税台帳を見れば分かります。物件の借主は役所に行けば閲覧出来る(自治体によって扱いは異なります)ので、必要に合わせて閲覧する様にしましょう。
役員に社宅を貸した場合
役員に社宅を貸す場合、豪華な住宅になるケースが多いです。そこで、役員の場合は、社宅の規模が小規模か否かで扱いが異なります。
まず、役員に貸す社宅が小規模住宅(※)の場合、賃料相当額の算出方法は上で紹介した従業員の場合と同じです。
※:小規模住宅とは、建物の耐用年数が30年以下の場合は床面積132㎡以下、耐用年数が30年を超える場合は床面積99㎡以下の住宅を言います。
一方で、社宅が小規模住宅でない場合は、以下の方法で賃料相当額を算出します。
社宅の形態 | 計算方法 |
---|---|
自社所有の社宅の場合 | {(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%}+{(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%}÷12 |
会社が不動産業者等から借りている住居の場合 | 会社が家主に支払う家賃の50%と①の計算結果とのいずれか大きい金額 |
ちなみに、役員から徴収している金額が家賃相当額に満たない場合、本来徴収すべき家賃相当額との差額は役員報酬になりますが、法人税上は継続的な利益供与(法人税法基本通達9-2-11)として定期同額給与となります。
(定期同額給与の範囲等) 継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの
(法人税法施行令第69条第1項2号)
従って、役員に対する社宅家賃相当額の不足分が給与課税となった場合、役員個人の所得税や住民税などは影響を受けますが、基本的に法人税の金額的への影響はないと考えられます。
なお、継続的な経済的利益は定期同額給与として扱われますが、役員報酬として認めてもらうには株主総会で承認を得ておかなければなりません。
あらかじめ明確な経済的利益の金額が分からない場合は、「毎月の役員報酬額○○円+経済的利益」という形で議事録を作っておくと良いでしょう。
社宅なのに、従業員の全額自己負担はおかしい?
会社名義で社宅を用意して、社宅を使用する従業員や役員から賃料相当額を受け取るのが、一般的な社宅の在り方ですよね。
しかし、これはあくまでも会社の福利厚生の一種です。
従って、社宅を用意してくれているからといって、必ずしも会社が家賃を負担してくれるとは限りません。
従って、場合によっては、家賃の補助が無く「社宅なのに家賃は全額自己負担」というケースも有り得ます。
就業規則上その様になっているのであれば、会社を責める事は出来ませんが、予め自分の会社で社宅がどの様な扱いになっているのかは知っておいた方が良いでしょうね。
社宅の駐車場利用料も経費処理は可能?
税務上、社宅とは「居住の用に供する家屋又はその敷地の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利」の事を指しています(参照元:役員に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算 | 所得税基本通達36−40 )。
この文言を見る限り、駐車場は社宅に該当せず、上で紹介した計算方法を適用して賃料相当額の計算をする事は出来ません。従って、会社が従業員や役員の駐車場を負担している場合は、その部分については給与として課税される事になる点、注意が必要です。
社宅にかかる水道光熱費を会社負担にしたらどうなる?
まとめ
いかがでしたか?
従業員や役員の方がアパートやマンションに賃貸で住んでいる場合は、社宅として会社が借り上げして給料から賃料相当額を控除する方法が、会社にとっても個人にとってもお得な事が分かりましたね。
社宅を会社で経費にする際には、給与課税されない様に賃料相当額として徴収する金額を事前に規定で決めておく様にしましょうね。
なお、社宅家賃に関する会計処理等については「社宅家賃の会計仕訳と税務処理」で解説しているので参考にして下さい。