開業費の範囲と会計上及び税務上の償却方法・期間など。

開業費のサムネイル

会社を設立するには、何かと費用がかかりますよね。しかし、会社は設立して終わりではなく、その後実際の開業に向けて色々準備をしなければなりません。

設立後開業するまでには、チラシやホームページを作ったり、打ち合わせをしたりと結構お金がかかります。開業するまでにかかった費用(開業費)は、税務上通常の経費とは異なった扱いを受けるので、処理方法などを知っておかないと損をする可能性が有りますよ。

そこで、ここでは開業費の範囲や会計処理等について解説していきます。

開業費と似て非なる項目として「創立費」が有ります。創立費については、「創立費の会計仕訳と税務上の処理・開業費との違い」で解説しているので参考にして下さい。

目次

開業費とは?その範囲は?

開業費とはそもそも何の事をいうのでしょう。この点、開業費は繰延資産(※)に該当するのですが、広義の開業費として「会計上の開業費」、狭義の開業費として「税務上の開業費」とに分かれます。

※:繰延資産は、「法人が支出する費用のうち、支出の効果がその支出の日以後一年以上に及ぶもので政令で定めるもの」をいいます(法人税法第2条24号)。

まず、会計上の開業費は財務諸表等規則ガイドラインによると以下の様な意味となっています。

開業費とは、土地、建物等の賃借料、広告宣伝費、通信交通費、事務用消耗品費、支払利子、使用人の給料、保険料、電気・ガス・水道料等で、会社成立後営業開始までに支出した開業準備のための費用をいう。

一方で、税務上の開業費は法人税法施行令第14条第1項2号で、以下の様に定められています。

法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。

どちらも「会社を設立してから事業を始めるまでにかかった費用」の事ですね。
但し、税務上の開業費は会計上の開業費よりも範囲が狭く、「特別に支出する費用」に限定されており、経常的な費用は開業費として認められません。

つまり、「会計上は開業費として処理をしたとしても、税務上も開業費として認められるとは限らない」という事です。逆に、税務上開業費として認められるものは会計上も開業費として認められます。

そこで、以下で具体的な項目について税務上の開業費に該当するか否かを見ていきましょう。

なお、税務上の開業費に含まれないからといって費用(損金)に出来ないという訳ではないですよ。あくまでも税務上「開業費」として処理が出来ないという意味なので、支出した期の費用として処理する事になります。

打ち合わせの為の交際費や接待費

開業準備中には何かと打ち合わせが必要です。また、業者等に対する接待も発生するでしょう。

これらの項目は、開業した後であれば会議費や交際費として計上する事になりますが、開業前なのであれば開業費として計上する事が可能です。

但し、税務上の開業費として認められるのはあくまでも特別に支出したものに限られる、という点に注意が必要ですね。

開業した後の取引の為に必要な事前の会議費や交際費などは特別に支出したものと言えるでしょうが、社内で行った懇親会等の費用は、特別な支出とは言い難いので、税務上は認められないです。

印鑑や名刺、チラシ、DMなどの作成費用・広告費用

法人を設立してから、開業をするまでの間に新しく名刺を作ったりチラシやDMのデザインを業者に依頼する事が有りますよね。これらは、開業前に特有の必要な支出なので、税務上の開業費として問題有りません。

なお、開業後に支出する分については広告宣伝費や消耗品等として処理する事になります。

市場調査などの調査費

開業前には、業者毎の手数料や消費者の動向など様々な市場調査を実施しますよね。開業前の市場調査をじっくり行う事は開業後のスムーズな事業展開の為にとても重要なポイントです。

市場調査費は開業前に特別に必要となる支出なので、開業費として処理する事が出来ます。また、市場調査に必要となった書籍や業界紙を購入する費用なども開業費として問題有りません。

Webサイト構築費用

最近では事業を行うにあたってWebサイト(ホームページ)は必須のものとなっていますよね。開業前にじっくりと作り込む事も有るでしょう。

ウェブサイトは、基本的には企業や新製品のPR等の為に制作されるもので、頻繁に内容が更新される事から、支出したときの費用として処理すべきと考えられています。

しかし、内容が更新されないものやWebサイト構築費用に含まれる「プログラムの作成費用」については無形固定資産(ソフトウェア)として減価償却の対象です。

注:以前は当該内容について国税庁のホームページで記載されていたのですが、現在(2023年10月時点)は削除されています。少し考え方が変わったのかもしれません。ちなみに、昔掲載されていたタックスアンサーはこちらから見れます。→「No.5461 ソフトウエアの取得価額と耐用年数|法人税|国税庁

従って、Webサイト構築費用のうち減価償却の対象となる分については開業費として処理出来ない、と考えておきましょう。

業務用の備品・消耗品

業務上必要な備品や消耗品については、会社設立後業務開始前から必要となります。しかし、これらは開業後も変わりなく使うもので「特別な支出」とは言い難いですね。

従って、税務上の開業費として取り扱う事は出来ないでしょう。

電話・インターネット等の通信費

開業前にも電話やインターネットは当然に必要ですよね。電話が無いと必要な連絡が出来ないですし、インターネットが無いと調べものなども出来ません。

しかし、通信費は開業前に限らず開業後も引き続き支払いが続く経常的な費用です。従って、特別な支出とは認められず、税務上の開業費として取り扱う事は出来ないでしょう。

参考:電話回線やインターネット回線を引く為の工事費用も同様。

保険料

開業準備段階で損害保険や生命保険に加入する事も有るでしょう。しかし、保険は開業前に特別に支出するものではなく、開業後も経常的に支出されるものです。

特に、会社が加入する生命保険の場合は、全額損金にならず一部(※)を保険積立金として資産計上する事になります。これを開業費として自由に償却してしまうと、処理の整合性がとれなくなりますよね。

以前は半損&半分資産計上という保険商品が多くなりましたが、生命保険を使った節税が行き過ぎた結果、2023年時点では資産計上のルールが厳格化されました。

従って、保険料を税務上の開業費として取扱う事は出来ません。

開業前の事務所や店舗の家賃・水道光熱費(電気・ガス・水道代など)

事業を開業するにあたり、事務所や店舗を用意する必要が有ります。自宅を事務所や店舗として開業する場合は問題無いですが、他から借りる場合は家賃や光熱費を支払わなければなりません。

しかし、これらの費用は開業後も必要になるものなので経常的な支出です。従って、開業前に借りた事務所や店舗の家賃や光熱費については税務上の開業費として計上する事は出来ません。

借入金の利子

会社の設立後、開業までの間に開業準備資金として金融機関から融資を受ける事が有ります。

融資を受けると、利率に応じて利子を支払わなければならないのですが、この利子は税務上の開業費として計上する事が出来ません。開業にあたって必要となった資金だったとしても、借入金は開業後も毎月返済していく事になるので、その際に発生する利子は経常的な費用となるからです。

この点については、国税不服審判所の裁決事例集にも事例が載っているので参考にしてみて下さい(リンク先は個人事業開業前に借入をした例)。

使用人の給料

開業準備にあたって、使用人を雇う事が有ります。

しかし、使用人に対する給料は経常的に発生する費用なので、税務上の開業費として計上する事は出来ません。

固定資産の取得価額

営業準備に伴ってパソコンやオフィス家具等の備品を購入する事が有りますよね。1個又は1組の価格が10万円を超える備品等(※)については、減価償却資産(固定資産)として減価償却をしていかなければなりません。では、開業前に購入した備品等は全て開業費として処理する事が出来るのでしょうか?

※:10万円以上20万円未満のものは一括償却資産として3年間で償却、また、30万円未満のものであれば特例によって購入時の費用とする事が出来ます。(参考:少額減価償却資産・一括償却資産って何?金額基準や適用要件まとめ

この点、固定資産に該当するものについては、開業費ではなく固定資産として計上し、耐用年数に従って各期の経費にしていく事になります。従って、固定資産を開業費として処理する事は出来ません。

営業を開始する前に購入した商品等

小売や卸売り等をする場合、営業開始前に商品などを業者から仕入れますよね。この仕入に関しては開業費として処理出来るのでしょうか?

この点、仕入などの費用は売上と対応させる必要が有るので、開業費として償却する事は出来ません。従って、開業した日にまとめて「仕入高」で計上する事になります。

開業費の償却方法・償却期間

資産計上された開業費を経費にする際の償却方法は「任意償却」となっています。

これは、法人税法施行令第64条第1項1号で、開業費の償却限度額が「その繰延資産の額」とされている事から分かりますね。

参考:一般的な繰延資産は、支出の効果が及ぶ期間にわたって月割で経費計上する事になります。

従って、支出した事業年度に全額経費処理をしても構わないですし、今期は償却せずに来期は3割だけ償却するなど、次期以降に好きな金額を好きなタイミングで経費にする事も出来るのです。

とはいっても、青色申告をしている法人の場合は赤字になっても以降9年間にわたって繰り越す事が出来るので、実務的には初年度に全額経費としてしまってもあまり問題は無いような気もしますけどね・・・。

白色申告の場合は赤字を翌期に繰り越す事が出来ないので、支出した期の経費にしてしまわずに積極的に開業費を活用した方が良いでしょうね。

開業費を償却する時の仕訳や消費税は?

開業費の仕訳は以下の通りです(30万円を開業費として支出し、決算時に15万円を償却した場合。)

①開業費の支出時
(借方)開業費 300,000円 /(貸方)現預金 300,000円

②決算時
(借方)開業費償却 150,000円 /(貸方)開業費 150,000円

なお、開業費にかかる消費税については、開業費を支出した日が属する事業年度に仕入税額控除を行う事になります(参照元:消費税法基本通達11-3-4。償却した事業年度ではないので注意が必要ですね。

個人事業主(所得税)の開業費は法人と異なる?

個人事業主が開業する際にも開業費は発生しますが、考え方や扱いは法人の開業費と同じなのでしょうか?

この点、所得税上の開業費については所得税法施行令第7条1項1号で以下の様に定義されています。

開業費(不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。)

個人には法人設立という概念はないので、開業費として認められる期間がより長くなりますね(※)。この点以外は、それ以外は法人と同じで「特別に支出する費用」という点でも同じですね。

※:開業の前年以前の開業準備費用でも開業費として処理する事は可能です。但し、何年でも認められるという訳ではなく、一般的には事業開始前の6〜12ヶ月が限度だと考えておきましょう。

なお、所得税上は開業費の償却について以下の2つの方法が認められています(所得税法第50条・所得税法施行令第137条第1項、第3項)

  • 5年(60ヶ月)の均等償却
  • 任意償却

5年の均等償却という決まりが有る点は法人と異なりますが、任意償却も認められている事から結局のところ償却方法は法人と同じく「自由」という事になりますね。

まとめ

開業費は、法人設立後開業前に支出した費用を資産計上し、その後の期間に任意で経費にする事が出来る便利な勘定科目です。

但し、何でもかんでも開業費として処理出来る訳では無く制限が有ります。開業費をうまく活用して節税が出来ると良いですね。

なお、開業費として繰延をする場合は、固定資産台帳に開業費として計上し、その内容が分かる様に領収書やレシートをしっかりと保管する事を忘れずに!

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