株式会社を設立するときには、資本金の金額を決めなければなりません。
「何となく100万円でいいや」、「とりあえず500万円にしておこう」という感じで決めている方もいるかもしれないですが、その決め方で大丈夫ですか!?
そもそも資本金とは何でしょうか?また、資本金の大小により不利益が発生することはあるのでしょうか?
何に影響を与えるのでしょう。ここでは、資本金の意味や会社を設立する際の資本金の決め方などについて見ていきます。
株式会社の資本金とは?
資本金とは、簡単にいうと「会社の事業をスタートするにあたって用意した元手」の事です。
但し、元手という側面だけではありません。資本金には他にも役割があります。概ね以下のような役割がありますよ。
- 軌道に乗るまでの運転資金
- 対外的な信頼度の指標
- 融資時の判断基準
- 許認可取得時の基準
以下で詳しく見ていきますね。
軌道に乗るまでの運転資金
通常、会社が事業を始めてから売上を得るまでに、商品の仕入や通信設備・備品の用意、家賃・給料の支払などが先に発生します。
売上が入金されるまでに、これらの経費を支払う事が出来なければ会社設立後いきなり資金ショートしてしまいますよね。そこで、資本金には会社が軌道に乗るまでの「運転資金」を担うという役割が有るのです。
元手が少なくても会社を作る事は出来ますが、会社は作ってすぐに事業が軌道に乗る訳では有りません。あらかじめ軌道に乗るまでの道筋を立てて、資金繰りを考えておく必要が有りますね。
対外的な信頼度の指標
資本金には、対外的な信用を得るという役割も有ります。どういう事かと言うと、企業と新たに取引を開始する場合、信用度の低い企業とは取引をしたくないですよね、取引をして代金を払ってもらえなかったりすると大変な事になります。
そこで、新たに取引を開始する際には、事前に相手企業が信頼に値するかどうかを調査をするのが一般的です。そして、信用度を測る1つの指標として「資本金の額」を採用している企業が多いです。
会社の資本金は登記簿に記載されており、登記簿は誰でも法務局で入手する事が出来るので、信用度調査のとっかかりとしては最適という訳ですね。
設立後間もない会社で資本金が少ないと、不安感を相手に与えてしまいかねないので注意が必要です。
融資時の判断基準
運転資金や設備投資の資金を金融機関から借りる場合、金融機関はその会社に融資をする前に審査をします。そして、設立したての会社の場合、審査をする上で資本金の金額が結構重要です。
というのも、金融機関は融資をする際に自己資金がどれくらい有るのか、という点を重視しているからですね。自己資金がないのにお金を借りようなんて、ちょっと甘くないですか?というのが金融機関側の考えです。
但し、厳密には資本金と自己資金は多少異なります。資本金が200万円だったとしても、社長がポケットから100万円を出して設備投資等に充てるというのであれば、自己資金は300万円としてカウントされます。
従って、資本金が少なくても融資を受ける事が出来る可能性は有る、という事も併せて知っておきましょう。
許認可取得時の基準
業種によっては、事業をするのに許認可が必要なケースも有ります。そして、その許認可の審査基準に資本金の額が含まれている事が有るのです。
許認可を得るのに必要な資本金が決められている場合は、資本金が基準に達していないとそもそも事業が開始出来ないので、事前に審査基準をチェックしておく必要が有りますね。
資本金が変わると税金が変わる?
資本金の金額によって税金の取扱は以下の様に変わります。
資本金の金額によって税金の取扱は以下の様に変わります。
項目\資本金 | 1円〜 | 3百万円〜 | 1千万円 | 1千万円 〜1億円 | 1億円〜 |
---|---|---|---|---|---|
中小企業の優遇 | あり | あり | あり | あり | なし |
外形標準課税 | なし | なし | なし | なし | あり |
留保金課税 | なし | なし | なし | なし | あり |
交際費の損金算入 | OK | OK | OK | OK | 一部OK |
欠損金の利用制限 | なし | なし | なし | なし | あり |
消費税 | かからない | かからない | かかる | かかる | かかる |
住民税均等割 | 7万円 | 7万円 | 7万円 | 18万円 | 29万円 |
配当 | できない | できる | できる | できる | できる |
以下で1つずつ簡単に説明していきましょう。
中小企業の優遇(法人税率)
資本金が1億円以下の場合は、中小法人の軽減税率の特例が優遇されます。
具体的には、平成29年3月31日までに開始した事業年度については、法人税の基本税率は23.2%ですが、軽減税率が適用されると、15%(年間所得800万円以下)となります。
外形標準課税
資本金が1億円を超えると、事業所の賃借料や従業員数、借入利息、資本金の金額等により法人事業税の計算をする外形標準課税が適用されます(参照元:東京都主税局「「法人事業税に係る外形標準課税の概要」)。
留保金課税
特定同族会社が利益を必要以上に内部留保した場合に別途法人税が課税される「留保金課税」も、資本金1億円超の会社が対象です。(参照元:国税庁「税額の計算に関する改正」)。
交際費の損金算入
交際費については、平成26年3月31日以前に開始する事業年度まで、中小企業にのみ損金算入が認められた特権の様なものでした。
しかし、平成26年4月1日以降に開始する事業年度については、資本金が1億円超の会社でも一定の金額は損金算入が認められるようになっています。が、認められるのは交際費のうちの飲食費のみ。しかもかかった費用の50%までしか損金算入出来ません。
欠損金の利用制限
法人の場合だと過去に発生した赤字(欠損金のこと)を10年間繰越可能です。その赤字を当期以降に発生した黒字と相殺することで、税金の発生を抑えることが出来ます。
この繰越欠損金も資本金が1億円以下か否かで使い勝手が変わります。資本金が1億円以下であれば100%使用できますが、資本金が1億超の場合には欠損金の50%までしか利用できません。
消費税
設立時の資本金が1,000万円未満の場合、消費税の納税義務者となるのは仮に1期目で課税売上が1,000万円を超えていたとしても3期目からです(※)。
しかし、資本金が1,000万円以上の場合は、設立1期目から消費税の納税義務者となります(参照元:No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例|国税庁)。
住民税均等割
法人住民税の均等割についても、資本金の影響を受けます。均等割は赤字でも発生する住民税ですが、資本金が1000万円以下かどうかで大きく異なるのです。
そして、資本金が1000万円を超えると段階を追って金額が大きくなります(上の表は東京都で従業員数50人以下の場合)。
配当
最後に、配当の可否ですが会社が配当出来るのは、事業年度末の純資産の金額が300万円以上の場合のみです。
従って、資本金の金額が300万円未満の場合は配当は出来ない可能性が高いです(純資産の金額で判定するので、資本金が300万円未満でも配当出来る可能性は有ります)。
配当可能額の算出方法は下記記事でまとめていますので、そちらも参考に!
【参考】シャープの減資について
少し古い話ですが、2015年の4月頃に日本有数の電機メーカーであるシャープ株式会社が過去の累積赤字を無くす為に99%減資をする、という報道がされましたよね。
減資をすれば、資本金が減り繰越利益剰余金は増えるので、累積赤字の場合は赤字の金額が減る事になります。従って、シャープの選択は正しい事と言えますよね。
しかし、結局は批判が相次いだ為に、シャープは資本金を5億円にする事になりました。
資本金を1億円にする事がなぜ批判の対象となったのでしょうか?
これは、上の表を見れば分かりますね。資本金が1億円なのか1億円超なのかで、税制上の優遇制度が大きく異なるのです。税務上は、資本金が1億円を超える場合を大法人、1億円以下の会社を中小法人として扱います。
つまり、「シャープは減資によって中小法人になり延命措置を図ろうとしている」、と世間が考え批判される様になったという訳です。それ自体、別に悪い事ではないのですけどね「一流企業のする事ではないだろう」、という感じなのでしょう。
会社設立時の最低資本金の額は?今は1円起業も可能!
会社設立時は最低いくらの資本金が必要なのでしょうか?元手が少ない中で会社を設立しようと考えている方にとっては、気になる点ですよね。
この点、新しく会社を作る場合の最低資本金の金額は1円です。
従来の商法では、設立時の資本金として株式会社は最低1,000万円(旧商法第168条の4)、有限会社は最低300万円(旧有限会社法第9条)が必要とされていました。その為、株式会社を設立するにはまとまったお金をかき集めなくてはならず、ハードルが高かったという経緯が有ったのです。
そこで、平成18年5月1日に施行された会社法では、最低資本金の規定が撤廃され、資本金が1円でも会社を設立出来る様になりました。
これで、元手が少ない方でも設立に必要な費用さえ捻出できれば、簡単に会社を設立する事が出来る様になったという訳ですね。
資本金0円でも会社設立は可能か?
「資本金が0円の会社は出来ないのか?」と疑問に思う方もいるでしょう。
この点については、実際にその様な会社を設立する人がいるかどうかや現実に存在するかどうかはさておき、理論上は設立可能でしょうね。
設立時の資本金は「金銭出資で払込を受けたお金と現物出資(※)の評価額の合計」で算出されます(会社法第445条第1項)。
※:会社の設立に際して、個人で持っている自動車やパソコン、有価証券、不動産などを会社に譲渡して出資金に充当する事。価額の総額が500万円を超える場合は、裁判所選任の検査役による財産価値の評価か、弁護士や公認会計士、税理士等による価額の妥当性に関する証明が必要(会社法第33条)。
金銭出資のみで会社を設立をする場合は、最低でも1円以上の資本金が必要です。一方で、現物出資をする場合は負債を現物出資の対象財産に含める事も出来るので、資産よりも負債の方が多い場合は現物出資の額がマイナスとなりますよね。
その結果、金銭出資と現物出資の合計額が0円(マイナスの場合は0円)となるケースが有るのです。その場合、資本金は0円になりますね。
但し、資本金が0円の会社を作るメリットは全くと言って良いほど無いでしょうね・・・。
資本金の決め方
資本金が1円でも会社を設立する事は出来るという事が分かりました。
では、実際に会社を設立するに当たり、資本金の金額は何を考慮して決めれば良いのでしょうか。また、いくらくらいにすれば良いのでしょうか?
「株式会社の資本金とは?」のセクションで書いた点と被る箇所も有りますが、見ていきましょう。
少な過ぎると弊害有り!
確かに、最低資本金の規制は撤廃されたので、1円でも会社を作る事は出来ます。
しかし、上述した様に資本金が少な過ぎると事業が軌道に乗るまでに資金ショートする可能性が高いです。それに、そもそも資本金が1円では会社の設立費用すら出す事が出来ませんよね。
もちろん、資本金を少なめにして、お金が足りなくなったら社長からお金を借りて(役員借入金 ※)何とか運営していく、という方法も可能です。しかし、それをすると負債ばかりが増える事になり、自己資本比率が低くなってしまいます。
※:役員が会社にお金を貸した場合は無利息でも問題有りません。但し、利息を取る場合は役員個人に確定申告の必要が生じ得る事も有るので、注意が必要。また、適正利率よりも不当に高い利率に設定している場合は、役員給与としてみなされる事が有ります。
また、資本金が1円の場合、少しでも赤字が出ると債務超過(会社の資産よりも負債が多い状態)に陥ってしまいます。債務超過の状態は決して好ましい事では有りません。資産よりも負債が多いという事は経営が危うい事を意味していますからね。
特に、銀行からの融資を考えている方の場合は、資本金や自己資本比率が低過ぎたり債務超過の状況になっていると融資に支障が出てしまいます。融資審査において債務超過はご法度です。
取引先の決算書や登記簿を見たときに、資本金が1円だったらどう思いますか?
何となく「こんな会社信用出来るのかな・・・」と心の中で思ってしまいますよね。中には、信頼性という面から資本金が一定以上の金額でないと取引しません、という商習慣の業界も有る様ですよ。
必要以上に多くするのも難有り!
では、資本金は多ければ多い方が良いのでしょうか?
答えはNOです。
確かに、信頼性という面で資本金は多い方が良いでしょう。しかし、上述したように資本金が多過ぎると税制上不利になってしまいます。
また、一度決めた資本金は簡単に払い戻しをする事が出来ないですし、社長だからといって自由に引き出す事も出来ないのです。
例えば、ちょっと無理をして資本金1,000万円の会社を作ったとしましょう。その後社長が個人的にまとまったお金が必要になった場合、役員報酬を超える金額は社長に貸付(役員貸付金)する事になります。
この役員貸付金は、決算書上決して好ましいものでは有りません。なぜなら、会社のお金を役員が使い込んでいると考える事が出来るからです。会社と社長個人はあくまでも別物なので(中小企業の場合は、実質的に同じ様なものですけどね)、多額の役員貸付金が有る会社は融資等の際にマイナスになる可能性が高いです。
また、役員に対してお金を貸し付ける場合、会社は適正な貸付金利息を受け取る必要が有ります。無利息とした場合は、認定利息として課税される事になるので注意が必要です(参照元:No.2606 金銭を貸し付けたとき|国税庁」)。
設立時は100万円〜300万円程度の資本金でOK!
資本金は少な過ぎても多過ぎても良く無い事が分かりましたね。では、実際のところ設立時にいくらくらいの資本金にしておくのがベストなのでしょうか。
この点、業種や出資者の資金繰りにもよるので一概に言う事は出来ないですが、設立時の出資金としては100万円〜300万円程度有れば十分でしょう。
これだけあれば、当面の運転資金としては十分でしょうし、融資の面でも何とかクリア出来るでしょうからね。但し、許認可の都合上多くの資本金が必要な場合は、それに従う様にして下さいね。
補足:資本金は誰が振込んでも良い!?
会社を設立する過程で、発起人は出資額を発起人代表者の個人口座に振込む事になります。このとき、振込の名義人は出資者本人でなくても特に問題は有りません。
例えば、太郎さんが起業するとして、太郎さんの叔父がお金を貸している場合は、叔父名義で振込をしていても問題は有りません。出資金の振込時に重要なのは、以下の2点です。
- 入金口座が発起人の代表者名義で、その金融機関・支店等の情報が確認出来る
- その口座に資本金の金額以上の払込の有った事を確認出来る
以前は、出資者自身の名前が通帳に印字されている事が求められていましたが、現在はその必要が無いので設立手続きが簡略化されていると言えますね。
まとめ
いかがでしたか?設立時の資本金を適当に決めていた方もいるかもしれないですが、「資本金がいくらか」という点が結構大事な事が分かりましたね。
自分の会社は融資を受ける可能性が有るのか、運転資金としてどれくらい用意しておいた方がいいのかなどを総合的に考えて、資本金の金額を判断する様にしましょうね。