法人を経営していると、何かと経費の捻出に思考を巡らせますよね。
節税対策という点では、個人名義の車を法人名義にすると経費に出来る範囲が増えるので有効です。
しかし、車の名義を個人から法人に変更する際には注意点も有ります。何も考えずに名義変更してしまうと、思わぬ税金がかかったり、保険の等級が下がってしまう事も有りますよ。
そこで、ここでは個人名義の車を法人名義にする時に注意すべき点について見ていきましょう。
個人名義の車を会社で活用する方法
個人で持っている車を会社で利用したい場合、主な方法としては以下の3つが有ります。
- ①個人名義のまま法人に貸す(賃貸借)
- ②個人名義のまま法人に貸す(使用貸借)
- ③個人名義から法人名義に変更する(売却する)
以下で1つずつ内容を見ていきましょう。
①個人名義のまま法人に貸す(賃貸借)
まず、①の車の名義をそのままにして会社に有料で貸し付ける方法です。
この場合、車を借りた会社は自由に使う事が出来ますが、その対価として車の使用料を支払う事になります。
会社が個人に対して使用料を払って車を借りるので、車の使用料はもちろん、ガソリン代や高速代、保険料なども会社の経費として問題有りません。
但し、個人名義の車を会社に賃貸借して個人がお金を受け取った場合は、雑所得として確定申告をする必要が有ります。
なお、元々役員報酬をたくさん貰っていて所得税の税率が高い方の場合は、車の使用料に対してかかる個人の税金の方が使用料を費用にして安くなる法人税よりも高い場合が有ります。このようなケースではあまり得策とは言えない方法です。
②個人名義のまま法人に貸す(使用貸借→無料)
次に、②の車の名義は個人のままで会社に使用貸借をする、という方法です。使用貸借は要は無料で貸してあげるという事ですね。
この場合は、ガソリン代や高速代等は損金にする事が出来ますが、あくまでも個人の車なので償却費や税金等の維持費は個人負担となるでしょうね。自動車保険については、法人で使用するのであれば損金にしても構わないのではないでしょうか。
なお、使用貸借をする場合は、法人と個人での区分が曖昧になりがちなので、どの経費をどっちが使ったのかなどを明確に区分しておく様にしましょう。
③個人名義から法人名義に変更する(売却する)
最後に、③の個人名義の車を法人名義に変更する方法です。これは、車を個人から法人に売却する事を意味しています。
車の名義が変わるだけで、使用状況などが特に変わらないのであれば、敢えて名義を変える必要は有るの?と思うかもしれませんが、これには損金算入の範囲が増えるというメリットが有ります。
この点については、以下で詳しく見てみましょう。
車の名義を法人名義にするメリット〜損金が増える!〜
車を法人名義にする事で一番のメリットは、「法人で損金に出来る範囲が増える」という点です。中でも車両本体価格の減価償却は大きいですね。
上述した、個人名義の車を会社が賃貸借や使用貸借により借りる場合、あくまでも車の所有者は個人で会社は借りているだけなので、基本的に減価償却費を計上する事は出来ません。
しかし、車を購入した場合は別です。購入した車が30万円以上であれば、中古車として減価償却の対象となります。
つまり、車を個人から法人に売却し名義を変更する事で、車の取得価額分を損金に算入する事が出来るという訳です。これは結構大きいですよね。税金等も法人名義にすれば法人に課税されるので、問題なく損金にする事が出来ますよ。
なお、個人名義で買った車をそのまま会社で減価償却する事も不可能では有りません。現実的にも、元々個人名義の車が有った場合、法人名義にすると等級が下がってしまいます(この点については後述します)し、名義変更に手間やコストもかかるので、名義は個人のままという会社も有るでしょう。
また、税務調査においても形式よりも実態が重視されるので、個人名義だったとしても法人専用として使っているのであれば、損金性を否認される事は基本的には無いでしょうね。
とはいえ、税務調査時に法人の業務用で有る事を客観的に証明するのはなかなか難しいです。結局のところ、税務リスクという面では法人名義にしておくに越した事は無いという事ですね。
ちなみに、決算期直前になって「税金がたくさん発生しそうだから」と慌てて車を購入する経営者がいますが、これはあまり意味がないです。
というのも、車の減価償却は月割計算をするので、決算の月に車を買ったとしても1ヶ月分しか損金にする事が出来ません。しかも、契約を結んだものの決算日まで納車されなかった、というのであれば1ヶ月分すら損金にする事が出来ないです。
参考:固定資産の減価償却が開始するのは、「事業の用に供した日」です。車の場合は納車されるまでは使用する事が出来ないので、「納車日」が減価償却の開始日となります。
むしろ、損金にならないのにお金だけが出て行くので、キャッシュフロー的にも好ましく有りません。
個人名義の車を法人名義にする際の「時価」とは?
個人名義の車を法人で使うのであれば、法人に車を売却して名義変更をするのが好ましいと書きました。
では、個人名義の車を社用車(会社名義)にする際、いくらで売るのが正解なのでしょうか?。
「元々自分の車を自分の会社に売るのだからタダでも良いじゃないか」、と思うかもしれませんがそうはいきません。
個人名義の車を法人に売る場合は「時価」で売る必要が有ります。
法人が個人から時価より低い価額で資産を譲り受けた場合、取得価額と時価との差額が受贈益として課税されます(法人税法第22条2項)。また、売却額が時価の2分の1以下だった場合は、売った個人に対しても「みなし譲渡所得」が課税される事になります(所得税法第59条1項2号・所得税法施行令第69条)。
なお、時価の定義は税務上も色々な場面で登場しますが、一例として財産評価基本通達では「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」としています。
要は、「一般的に取引されている価格」という事ですね。
車の場合は、中古車買取専門店等に売るときの価格と販売店から買うときの価格が有りますが、極端な差が無い限りはどちらを参考にしても特に問題になる事は無いでしょう。客観的で合理的な価格で売買しているかどうかが重要な訳ですからね。但し、参考にした価格の資料は必ず残しておく様にしましょうね。
なお、中には「減価償却をした後の未償却残高で売れば税金がかからない」と考えている方もいますが、それは違いますよ。
自家用車は長くても6年で減価償却が終わりますが、車によっては10年落ちでも数百万円で取引されるものも有ります。
従って、「10年落ちだったら帳簿価格が0円なので0円で売っても大丈夫」、と単純にはいかないですよね。
最近は、ネットや中古車情報誌などで大体の取引価格は分かるでしょうから、適当な金額で売買してしまうと税務署に指摘される可能性が有りますよ。但し、時価を調べた結果、未償却残高と大差なかったのであれば、未償却残高で売却しても問題にはならないでしょう。
ちなみに、個人名義の車を会社に売った場合、譲渡益が発生するのであれば譲渡所得として確定申告が必要です。
個人事業として使っていた車の名義を法人に変更するのであれば、消費税の問題も出て来る事が有るので忘れずに申告する様にしましょう。
保険の等級を個人から法人に引き継ぐ事が出来る!?
自動車の名義を個人から法人に変更する際の不安点として、「等級が下がってしまう」というものが有るのではないでしょうか。
今まで個人で20等級だった方が、法人名義にする事で6等級まで下がってしまうのであれば、保険料の負担額は一気に増えてしまいます。
この点、既に経営している会社で個人名義の車を法人名義にする場合、法人として改めて契約をする事になるので、法人に等級を引き継ぐ事は出来ません。
但し、元々個人事業をしてた方が法人成りのタイミングで車の名義を法人に移すのであれば、等級を引き継ぐ事が出来るのです!
具体的には、個人の等級を法人に引き継ぐには以下の様な要件を満たしている事が必要です(保険会社によって詳細な条件や必要書類は異なるので、加入している保険会社に問い合わせる様にして下さい)。
- 法人成りした時点で車を持っており、自動車保険に加入していた
- 個人事業と新設法人の事業内容が同じ
- 個人事業主が記名被保険者となっている車が、継承日に法人に持ち出された
保険会社は、事故が起きる可能性を基に等級の引き継ぎが出来るかどうかを判断します。個人名義の車を会社でいきなり使い始めるというケースでは用途が異なるでしょうから、通常は等級の引き継ぎは出来ません。
しかし、元々個人事業主として事業で車を使っていた場合に、法人成りをして引き続き同じ用途で車を使うのであれば、保険会社としてはリスクが変わらないと判断して、等級が引き継げるという訳ですね。
まとめ
個人で使っていた車を法人に売却して名義変更する事で、損金に出来る範囲は増える事が分かりましたね。
但し、使用状況が変わらないからといって適当にしてしまうのではなく、時価をチェックした上で適正な価格で売却し売買契約書もしっかりと作成する様にしましょう。
法人への引き継ぎ価格について自信が無い場合は、顧問税理士等に相談する事をオススメします。
なお、車を法人名義にしておきながら法人の業務として一切使わず個人で使っているというのは、もちろん駄目ですよ。法人で全然使っていない車の取得費等を法人の費用として計上すると、脱税(法人税法第34条第3項)行為として損金を否認され、重加算税が課される事も有ります。
国税不服審判所の裁決事例集に法人名義の車を個人で使っていた平成24年11月1日裁決の事例(最終的に重加算税等は取り消されました)が有るので、興味の有る方は参考にしてみて下さい。