役員報酬が未払い計上のまま・・・費用として認められる?定期同額給与を守るのがポイント!

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「会社にお金が無いから一時的に役員報酬を未払にしたいけど、そのまま役員報酬として計上しても損金にできるの?」

こういった疑問を抱いた事のある中小企業の社長さんは多いのではないでしょうか。

中小企業では資金繰りが命なので(大企業でもそうですけどね)、当座の資金はなんとしても守りきらなければなりません。

それは「たとえ役員に対する報酬を一時的に払わない様にしても」です。

そこで、「会社のお金が足りなくなるかも・・・」という時には、役員報酬を一時的に未払いにする会社が良くあります。しかし、役員報酬を未払い計上した場合、その役員報酬は費用(損金)として認められるのでしょうか?

認められないとなると、会社に利益が残ってしまい法人税等によりさらに会社の資金繰りを圧迫する事になりかねません。

そこで、ここでは役員報酬を未払にしても費用として認められるのかや、会計処理の方法などにについて見ていきましょう。

:この記事で書いているのは「定期同額給与」のことだと思ってください。一般的に役員賞与と言われている”事前確定届出給与”は未払だと源泉納付の義務が発生する可能性があるなど少し取り扱いが異なりますので、取り扱いが少し異なりますのでご注意ください。(参考記事:役員賞与を損金算入する為のポイントと損金不算入となる具体的事例

目次

役員報酬は未払でも大丈夫?

会社にお金が無いからと言って、従業員への給料が未払いになる事は問題です。従業員には、毎月給料を払う代わりに仕事をしてもらっているからですね。給料が未払いになる様な会社は経営状態が悪いので、従業員もすぐに辞めてしまうでしょう・・・。

一方で、役員報酬については未払いでも特に問題が有りません。なぜなら役員は会社の経営者です。会社の資金繰りと相談しながら、経営判断として役員報酬を支給するタイミングを決める必要が有るからですね。

従って、一時的な資金繰りを理由に役員報酬を支払わなかったり、支払を延期する事はよく有ります。

参考:役員報酬として一旦役員に払ったけど、その後資金繰りが厳しくなって来たので役員からお金を借りる(役員が貸付する)、という事も中小企業ではよく起こります。

役員報酬を未払い計上して費用(損金)に出来る?

役員報酬は、株主総会(合同会社の場合は同意書)によって決定されます。そして、決定された金額に基づいて毎月費用計上をしている限り、それが未払いとなっていたとしても基本的に税務上は問題となりません。

参考:役員の執務内容に合わない様な高額な役員報酬は、過大役員給与として損金不算入となることがあります(法人税法第34条第2項)。

つまり、役員報酬を未払い計上しても費用(損金)として認められる、という事です。

但し、注意点がいくつか有ります。以下で見ていきましょう。

役員報酬は定期同額給与が原則!勝手に未払計上をやめると損金不算入に!?

役員報酬を考える際に、最も重要なのは「定期同額給与」という概念です。

役員報酬は、利益操作を防ぐ目的から経営者が自由に金額を動かす事は出来ません。1事業年度の間に役員報酬を変更出来るのは1回のみ(事業年度開始から3ヶ月以内)です。つまり、一旦役員報酬の金額を決めたら、基本的に毎月同じ金額を支払続ける必要が有り、これを「定期同額給与」といいます。

法人税法第34条第1項では、役員報酬に関して以下の記載が有ります。

内国法人がその役員に対して支給する給与のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

一  その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与(次号において「定期給与」という。)で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これに準ずるものとして政令で定める給与(次号において「定期同額給与」という。)

二 省略

三 省略

参考:役員報酬には、他にも事前確定届出給与(いわゆる役員賞与)と利益連動型給与とかあります。

従って、仮に役員報酬が未払になるとしても毎月役員報酬として同額の計上をし続けなければならない、という事です。「払うお金が無いし赤字だから」と、役員報酬の計上をストップする事は認められていないのです。

勝手に役員報酬を減額したり、計上を止めたりすると、引き下げた後の金額が役員報酬となり、従来計上していた金額との差額は損金不算入となってしまいます。

なお、法人税法施行令第69条第1項1号-ハで、経営の状況が著しく悪化した等の事情が有る場合には、役員報酬の金額を改定する事が出来ると規定されていますが、これには単なる資金繰りの問題は該当せず、以下の様なケースが想定されています(参照元:国税庁「役員給与に関するQ&A」)

①株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合

②取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合

③業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

従って、よほどの事が無い限り毎月の役員報酬の額は変更せずに、同じ金額を計上する様にしましょうね。

参考にどうぞ
【知らないと大損こくかも!】役員報酬の変更手続きの手順と損しない為の心得 役員報酬は定期同額給与が基本となっているので、自由に変更する事は出来ません。変更出来るタイミングは事業年度開始後3ヶ月以内と決まっており、一歩間違えるとこ損金不算入となってしまいます。ここでは、役員報酬変更の手続き(株主総会決議)や損をしないための心得について見ていきましょう。

原則は未払役員報酬の源泉徴収は不要!源泉徴収した方がいいケースもある!?

役員報酬を未払で計上する事自体には問題ない、という事がわかりました。しかし、役員報酬に対する源泉徴収はどうすれば良いのでしょうか?

本来的に、給与や役員報酬について源泉徴収をするタイミングは、「支払時」です。これは、国税通則法第15条第2項2号が根拠となっています。

2  納税義務は、次の各号に掲げる国税については、当該各号に定める時(当該国税のうち政令で定めるものについては、政令で定める時)に成立する。

一 (省略)

二  源泉徴収による所得税 利子、配当、給与、報酬、料金その他源泉徴収をすべきものとされている所得の支払の時

三以降省略

従って、未払の間は源泉徴収をする必要は無く、実際に支払った時点で源泉徴収及び納付を行えばOKです。

参考:役員報酬が未払の間仮に源泉徴収をしなかったとしても、年末調整の時点で未払いだった役員報酬は給与総額に含めて計算をするので、そこで精算される事になります。

しかし、実務上は異なった扱いをする事の方が多いです。

なぜなら、未払が有る場合に実際に支払うまで源泉徴収をしないとなると、その管理が大変ですよね。それに、役員報酬を損金として税務署に認めてもらう為(利益調整の為に計上しているだけではなく、しっかりと税金も払っているんだ!というアピールですね)にも、役員報酬の計上時に源泉徴収をして税務署に納付しておく事が重要なのです。

税務調査では役員報酬の取り扱いについて、結構厳しくチェックされるケースが多いですからね。

従って、役員報酬を実際に支払ったかどうかはさておき、計上の時点で源泉徴収をしておくのもアリですね(後述しますが、あくまでも計上後短期間で支払う事が前提です)。

役員報酬の未払は短期に解消!長期になる場合は借入金に振り替える。

役員報酬を未払計上しても問題ないと書きましたが、それはあくまでも「計上後短期間で実際に支給する」という前提です。

長期にわたって未払計上し続けると、「最初から役員報酬を支払う意思がない」と税務署にみなされて否認されてしまう可能性が有る事は、心に留めておいた方が良いでしょう。

役員報酬の額は毎事業年度1回見直すチャンスがあるので、自分の会社の資金力(体力)に見合った報酬額に設定しなおすのが普通です。

完全に支払う余地がない、というのであれば役員報酬の額をゼロにするかどうかの検討も必要ですね。

なお、未払い計上したものの長期にわたって支給する資金が得られない様な場合は、未払金を役員借入金などに振り替えた上で、金利(利息)の計上もした方が良いでしょう。

【日時・決算処理】役員報酬が未払いの際の仕訳や勘定科目は?

ここからは、役員報酬を未払計上する際の仕訳について見ていきましょう。

まず役員報酬を支払った際、通常であれば以下の様な仕訳を切りますよね(前提:役員報酬額30万円・源泉徴収額1万円・その他控除は無視)

借方金額貸方金額
役員報酬300,000現預金290,000
預り金10,000

一方で、役員報酬を未払い計上した場合は、本来的には以下の様な仕訳となります。

借方金額貸方金額
役員報酬300,000未払金300,000

そして、支払ったの仕訳は以下の通り。

借方金額貸方金額
未払金300,000現預金290,000
預り金10,000

但し、上述した様に、役員報酬を未払計上した場合でも実務上は計上時に源泉徴収をするのが一般的なので、その場合は以下の仕訳が必要です。

借方金額貸方金額
役員報酬300,000未払金290,000
預り金10,000

そして、実際に支払ったときの仕訳は以下の通り。

借方金額貸方金額
未払金300,000現預金300,000

未払金ではなく、役員借入金を使用しても特に問題ありません。

【参考】決算時(確定申告時)に役員報酬を未払費用として計上する事は出来ない!?

給料の締め日が月末の場合は特に考えなくて良いのですが、締め日が20日や25日など月末で無い場合、決算をする際に締め日から決算日までの日数分に応じた、従業員に対する給料を未払費用として計上しなければなりません。

例えば、3月決算の会社で給料の締め日が毎月25日の場合、3月26日〜3月31日までの給料を未払費用として計上する事になります。

では、役員報酬についても同様の処理をして未払費用を計上しても良いのでしょうか?

答えは「No!」です。

なぜなら、役員は会社と雇用契約ではなく委任契約を締結しています。役員報酬は委任契約に基づく報酬を定期同額で払っているものなので、日割り計算するという考え方がありません。

従って、締め日という概念がないので未払費用として計上する事は出来ないのです。

間違えて従業員の給料とセットで未払費用計上しない様に注意しましょうね。

未払の役員報酬の時効は何年?

自分が役員でいる限り、特に未払の役員報酬の時効について考える事はないかもしれないですが、役員を辞めるとなると別です。

役員を辞めて今まで未払のままだった役員報酬が時効になると、受け取る事が出来なくなるので不安ですよね。未払いの役員報酬は何年で時効となるのでしょうか?

この点、会社の役員は会社と委任契約関係(民法643条)にあり、従業員の様に雇用契約を結んでいる訳ではないので、労働基準法は適用されません。改正民法が適用され、時効期間は原則として5年となります。

参考:従業員の未払給与については、労働基準法115条により5年で時効となります。(ただし、当分の間は経過措置により3年が時効とされています。

最後に

役員報酬の未払計上の可否と、その周辺を取り巻く疑問などについて解説してきました。

資金繰りの関係で一時的に役員報酬が支払えない場合でも、定期同額給与としてちゃんと計上している限り、損金として処理して問題はありません。

ただし、未払い期間が長期にわたる可能性がある場合は、決算後の役員報酬見直しのタイミングで自社の体力に見合った金額に変更する様にしましょうね。

役員報酬は税務調査で厳しくチェックされる点の1つです。株主総会議事録を残しておく事は当然として、未払になったときなどの処理もしっかりとおさえておきたいですね。

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