「税金をたくさん払うのは嫌だ!だけど脱税は駄目!じゃぁどうすれば節税が出来るの?」
中小企業の社長さんが抱く大きな悩みですよね・・・。
法人税は所得に応じて発生するので、会社に利益が残ればそれだけたくさんの税金が発生します。一方で、たくさん経費を使えばその分利益が減少するので法人税の金額も下げる事が可能です。
しかし、税金を安くしたいが為に無駄に経費を使うのは正しい事なのでしょうか?
例えば、15万円の法人税を安くしたいからといって、80万円もの必要の無い経費を使うのは合理的だと思いますか?
違いますよね。
重要なのは、節税のパターンにどういうものが有るのかをしっかりと把握して、自分に合った最適な方法で節税をする事です。
そこで、今回の記事では節税のパターンやそれに対応する節税方法についても見ていきます。
【節税は○、脱税は×】節税と脱税は根本的に違います
節税パターンを見る前に必ず知っておいて欲しい事が有ります。それは「節税と脱税は違う!」という事です。
脱税は違法な方法によって納税を免れる事を言います。よく問題になるのが売上除外や架空経費の計上ですね。これらは、本来払うべき税金を不当に低くする行為で犯罪です。
脱税をすると重加算税が課される他、悪質な手口で高額な脱税事案になると逮捕・起訴される事も有ります。
一方で、節税は法律に則って適切な処理を行う事で納税額を減らす、合法的な行為の事です。
中小企業経営者の中には節税の意味を誤解している方もいる様で、脱税の事を節税と呼んでいる事も有ります。節税はOKですが、脱税は絶対に駄目ですよ!
節税のパターンは4つ!
節税方法には色々有りますが、大きく分類すると以下の4パターンに分かれます。
- ①お金のかかる繰延型の節税
- ②お金のかからない繰延型の節税
- ③お金のかかる永久的な節税
- ④お金のかからない永久的な節税
以下で、節税の4パターンについて1つずつ主な方法を見ていきましょう。
パターン①:お金のかかる繰延型の節税
「お金がかかる繰延型の節税」とは、お金を支払い損金処理をして所得を減らす(税金を安くする)けど、永久的に税金が安くなる訳では無く、単に税金の支払いを先延ばしにしているだけ、というものです。
先延ばしにしているだけなので、いつかは損金計上した分に見合う益金(利益)が計上され、その時に税金を支払わなければならなくなります。
どちらかというと、「とにかく今は税金を払いたくない!」というその場しのぎをしたい方には有効な節税方法ですね。
では、以下で具体的な節税方法を見てみましょう。
【事例①】短期前払費用の活用
原則として、決算時点でお金を支払っているけど役務の提供受けていない部分に関しては前払費用として資産計上しなければなりません。
例えば、12月決算の会社が年末に払った1月分の家賃、これは原則決算時は前払費用として処理し、翌事業年度に地代家賃として振替する事になります。これは、「費用と収益とを対応させるため」ですね。
しかし、支払った日から1年以内に役務の提供を受ける支払いに関しては、支払った時点で損金算入する事が出来るのです(これを短期前払費用と言います)。
例えば、毎月末に支払っていた事務所の家賃を決算期末に翌年1年分支払う様に切り替えると、その年は2年分の家賃を損金として計上する事が出来ます。
但し、この効果は短期前払費用として損金計上した初年度のみしか得られません。翌事業年度以降は12ヶ月分しか計上されないからですね。しかも、将来的に事務所を解約する時が来ると、前事業年度末に翌年分を一括で損金計上しているので、解約する事業年度の家賃は計上されません。
解約した年は本来であれば計上される損金が計上されないので、その分税金が上がる事になります。要は、一時的に損金計上額を増やして税金の納付を将来に繰り延べているに過ぎない、という事ですね。
【事例②】法人の生命保険を活用する
法人の生命保険(ガン保険や生活障害なども含む)といえば、節税対策の代表格ですね。
例えば、会社が社長を被保険者として保険をかけると、契約内容にもよりますが“支払った保険料の一部が損金”になります。
年度末近くになって利益がたくさん残りそうな場合は、年払いで一気に多額の保険料を払う事で利益を圧縮する事が出来る、という訳ですね。
しかも将来解約した際には、商品や解約のタイミングによって大きく左右されるものの、概ね80%前後の保険料(解約返戻金)が会社に戻って来ます。
社長に万が一の事があった際の保障も得られるだけでなく、節税も出来るのでとても便利です。
但し、法人の生命保険も税金を繰り延べているに過ぎません。将来解約した際には、基本的に解約返戻金の額がそのまま利益になってしまいます(全額損金以外の場合は、解約返戻金と資産計上額との差額)。
従って、解約する際には多額の利益が発生する事を知った上で加入する必要が有ります(解約を退職金支払いのタイミングと合わせたりすれば、解約時の税金を抑える事は可能です)。
【事例③】倒産防止共済(セーフティ共済)に加入する
中小企業倒産防止共済(セーフティ共済)は、中小企業整備基盤機構が運営している共済制度で、支払った掛金が全額損金として扱われます。
共済の本来の目的は、得意先が倒産した際に掛金に応じて運転資金の貸付を行うというものですが、掛金が全額損金として扱われる点が注目を浴びて節税対策として人気が有るのです。
掛金は月額20万円(年間240万円)まで損金にする事ができ、年度末近くに翌事業年度分も前納する事も出来るので、節税の駆け込み寺として利用するのも良いですね。
但し、全額損金の法人保険と同様に、解約した際に戻って来たお金は全額収益として計上されるので、税金の繰延に過ぎない点は知っておきましょう。
パターン②:お金のかからない繰延型の節税
お金がかからない繰延型の節税は、特に会社として支出をしなくても税金を将来に繰り延べる事の出来る便利な節税方法です。但し、この方法は基本的に一度使うとその後の事業年度ではメリットを受ける事が出来なくなります。
以下で、具体的な方法をいくつか見てみましょう。
【事例①】決算期の変更
お金のかからない繰延型の節税方法として最も典型的なのは、決算期の変更ですね。
例えば、12月決算の会社で毎年12月が繁忙期、1〜2月が閑散期だったとしましょう。12月決算だと2月末が申告・納税期限となります。閑散期の納税は大変ですよね・・・。そこで、決算期を11月決算に変更するのです!
2017年12月決算を終えた後で決算期変更をして11月決算にしたとします。そうすると、次の決算は2018年1月〜11月までの11ヶ月です。2018年12月の繁忙期分の税金を納付するのは、2019年11月決算の納税期限である2020年1月末となり、お金をかけずに納税時期を1年ずらす事が出来るという訳ですね。
この様に、決算期を変更する事で税金を納付するタイミングを先延ばしにする事が可能となります。
【事例②】締め日以降の給料や決算賞与を未払計上する
これは、従業員への給料の締めが毎月20日や25日など月末以外の会社が対象です。
一般的な中小企業は、20日締めであれば20日に確定した給与を未払計上して決算をします。しかし、20日から月末(決算日)までの約10日間も従業員は働いており、その期間分の給料支払い義務は発生しています。
そこで、締め日から決算日までの給料を「未払費用」として計上する事で、お金を使わずに経費を増やす事が出来るのです。
また、決算賞与についても業績が良かった年に支払うものとしているのであれば、一定の要件の下で決算時に未払計上して利益を圧縮する事は可能ですね(参照元:No.5350 使用人賞与の損金算入時期 | 国税庁)。これであれば、給料の締め日が月末の会社でも可能です。
【事例③】売上の計上基準を変える
売上の計上は、棚卸資産の販売の場合は「引渡し」があった日の属する事業年度に行う事となっています。
この「引渡し」とは、出荷した日や相手方が検収した日、相手が使用収益出来る様になった日など色々な考え方が有り、合理的な方法で継続して適用していればどれを採用しても特に問題有りません。
また、正しい方法から間違った方法への変更(例えば、出荷基準を採用していたのに入金基準に変更)は駄目ですが、正しい方法から正しい方法へ変更する事は可能です。
そこで、決算期末ギリギリに出荷した商品が有った場合、出荷基準から検収基準に変更すれば、その売上が計上されるのは翌事業年度になるので、税金の繰延が可能となるのです。
但し、会計処理は一旦すると継続して適用する事が必要なので、翌事業年度にまた出荷基準に戻すといった事は認められません。少なくとも4〜5年程度は継続して適用した方が良いでしょうね。
パターン③:お金のかかる永久的な節税
これは、節税の中で最もオーソドックスなタイプですね。消耗品等を買ったり、接待交際費などを支出して費用を増やす方法です。
従業員に臨時の決算賞与等を支給するのも1つの手ですね。「会社で税金を払うくらいなら、従業員に還元してあげたい!」と考えるのも良いでしょう。
お金のかかる節税は、費用が増える分利益は圧縮され税金は減りますが、お金を使うので手元の資金も当然減ります。しかし、他の節税方法と違って小手先のテクニックなども必要ないので、最も手堅い節税方法と言えるでしょう。
但し、1個当たりの金額が30万円以上となる減価償却資産を購入した場合は、一括で経費とする事が出来ず、その後の事業年度にわたって減価償却をしていく事になります。事業年度末近くで大きな買い物をしたとしても、全額が経費になるとは限らない点に注意が必要ですね。
⇒少額減価償却資産・一括償却資産って何?金額基準や適用要件まとめ
パターン④:お金のかからない永久的な節税
これが一番好ましいですよね。お金は必要無いのに税金が安くなる訳ですから。
以下で、いくつか代表的な節税対策を見てみましょう。
【事例①】税額控除を使う
税額控除とは、一定の条件を満たした場合に税金の額を控除出来るものです。
例えば、中小企業が機械等を取得したり(中小企業等投資促進税制)、従業員への給与支払額が過去と比べて増加した場合(所得拡大税制)に受けられる税額控除が有名ですね。
機械を購入したり従業員に給料を支払う事自体にはお金が必要ですが、それは元々税額控除を受けなくても必要なものですよね。
従って、条件を満たしていれば追加の支出をしなくても、必要事項を確定申告書に記載するだけで税額が減らす事の出来るので、税額控除はとても便利なものなのです。
【事例②】不良債権の見直しをする
会社に長い間得意先から回収出来ていない不良債権は残っていませんか?
売掛金は、放っておくと回収するまでひたすら貸借対照表に残り続けます。もし、既に倒産してしまっている得意先や、取引を停止して最後の弁済から1年以上経っている様な得意先が有る場合は、その売掛金を貸倒損失として費用処理する事が出来ます(参照元:国税庁「タックスアンサー:No.5320貸倒損失として処理できる場合」)。
また、貸倒処理をするに至らない場合でも、貸倒引当金として債権の貸し倒れに備えて一定の金額を費用処理しておく事も可能ですよ(参照元:国税庁「タックスアンサー:No.5501一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定」)。
ずっと売掛金として残しておいても、お金は増えないですし税金も減らないので、一度不良債権の見直しをしてみてはどうでしょうか。
【事例③】社宅を活用する
元々住んでいた賃貸住宅の契約名義を、会社に移して「社宅家賃」として費用計上するのもアリですね。
会社名義にしようがしまいが、住宅の費用はかかります。それなら個人で払っているものを会社名義に移して会社で経費にした方が、節税という面では好ましいですよね。
【事例④】在庫の評価損を計上する
在庫の中に、災害で損傷して売り物にならなくなったものや、陳腐化(※)して今後売れる見込みの無いようなものは有りませんか?
※:いわゆる季節商品が売れ残り、今後通常の価額では売れない事が明らかなものや、用途は同様だが性能や品質面で著しく異なる新製品が発売された事により、今後通常の方法では売れないものなど。
在庫の金額は基本的に取得した際の価額で計上されますが(原則:最終仕入原価法)、もし上記の様なものがあれば、棚卸評価損として在庫の評価額を下げる事が出来ますよ(法人税法施行令第68条第1項1号)。在庫の評価額が下がるとそれだけ売上原価が増える事になるので、最終的な利益は減ります。
なお、単に時価が変動した場合や過剰生産により在庫が残ってしまった様な場合は、評価損として計上する事は出来ないので注意が必要です。
【事例⑤】固定資産台帳の見直しをする
固定資産台帳に載っている固定資産の中に、既に使っていない物は無いですか?あるいは既に破棄してしまった物は無いですか?
機械や備品、車など固定資産として計上しているものの、既に使っていないものや廃棄済みの物については、簿価を取り崩し固定資産除却損として費用計上する事が出来ます。
放っておくと減価償却としてゆっくり償却されていくので、使っていないものなのであれば思い切って費用処理してみるのはどうでしょうか(売却した場合は、簿価との差額が利益になります)。
無駄に経費を使うのはもったいない!
消耗品を購入したり接待交際費を支出すれば、それ相応に税金は安くなるでしょう。しかし、費用として支払った分手元のお金も当然減っていきます。
結局のところ、経費を使って節税したところでそれが先々の売上や利益上昇に繋がらないのであれば、それは決して利口な行動とは言えないですよね。
100万円を経費に使っても25万円前後しか税金は安くなりません。しかし、確実に手元から100万円は無くなります。それなら、25万円の税金を払ってでも手元に75万円を残して、売上に貢献するものに対してお金を使った方が良い、と考えるのが正解でしょう。
決算期末が近づいて来るとどうしても「節税しなくちゃ」と思う経営者が多い様ですが、目先の税金の事ばかり考えて無駄な経費を使うのではなく、会社の未来を考えた意味のあるお金の使い方をしたいものですね。
最後に
節税のパターン4種類についてそれぞれの具体的な節税方法と共に見て来ました。
お金のかからない永久的な節税がベストですが、他にも色々節税方法は有ります。自分の会社に合った節税方法を見つけて、上手に節税対策が出来ると良いですね。
なお、文頭でも言いましたが節税はOKでも脱税は駄目です。節税の意味をはき違えない様にしましょうね。